えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
はたらく二少年
はたらくにしょうねん |
|
作品ID | 51651 |
---|---|
著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 14」 講談社 1977(昭和52)年12月10日 |
初出 | 「少年少女の広場」1949(昭和24)年3月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 酒井裕二 |
公開 / 更新 | 2018-05-21 / 2018-04-26 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
新しい道が、つくりかけられていました。おかをくずし、林をきりひらき、町の中を通って、その先は、はるかかなたの、すみわたる空の中へのびています。そこには、おおぜいの労働者が、はたらいていました。
トロッコが、ほそいレールの上を走りました。道ばたには、大きな土管がころがり、くだいた石や、小じゃりなどが、うずたかくつまれていました。
はたらくものの中には、年をとったものもいれば、まだわかいものもいました。かれらはシャベルでほった土をトロッコへなげこんだり、つるはしをかたい地面にうちこんで、溝をつくったりしました。こうして、しごとをする間は、たがいに口をきかなかったけれど、自分をなぐさめるために、無心で歌をうたうものもありました。
やがて正午になると、近くの工場から、汽笛がきこえます。すると一同は手を休めて、昼飯を食べる用意をしました。それからの一時間は、はたらく人々にとって、なによりたのしかったのでした。
二人の少年は、石へこしかけて、秋の近づいた空をながめていました。
「そんなら、Kくんは小さいときに、家を出たんだね。」と、Nがいいました。
「そう、母親がなくなると、父親はちっともぼくたちをかまってくれなかったから、どこかへいけば、母親のかわりに、やさしくしてくれる人があろうかと思ってね。」と、Kが答えました。Nはうなずきながら、
「わたしは、ちょうどきみとははんたいで、父親の顔をおぼえていない。まったく母親の手一つで、大きくなったのさ。その母の手だすけもできぬうちに、母は死んでしまった。」
「考えると、二人とも不幸だったんだね。」
「世の中には、両親がそろって、こんな悲しみを知らないものもあるんだが。」と、Nはたばこに火をつけました。
「それでもまだきみには、やさしいおかあさんがあったからいい。さびしいときは、いつでもおもかげを思いだして、自分をなぐさめることもできるから。」といって、Kは自分の子どものころのことを話したのでした。
いつも、ぼくはさびしい子どもだった。ある日、桑畑で、いくたりかの女が桑の葉をつんでいるのを見た。なんでもその葉はどこかの養蚕地へおくられるというのだった。むすめもいれば、おばさんもいた。その中に、白い手ぬぐいをかぶった、やさしそうなおばさんがあった。ぼくは、こんなようなおかあさんがおればいいになあと、なんとなく、したわしい気がして、そのそばへいって、桑をつむてつだいをした。おばさんは、ぼくの頭をなでてくれた。
このおばさんは、いい声で歌をうたった。その声をきくと、ぼくは悲しくなってしぜんに目からなみだがながれた。そして、おばさんが木から木へかわるたびに、ぼくはかごのかたすみを持ってやった。みんなの前で、はずかしいのをがまんして、すこしでもおばさんの手だすけになろうと思った。
そのあくる日、桑畑へいくと、もうここの仕…