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ひすいの玉
ひすいのたま
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 14」 講談社
1977(昭和52)年12月10日
初出「幼年クラブ」1949(昭和24)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2020-03-20 / 2020-02-21
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 町というものは、ふしぎなものです。大通りから、すこしよこへはいると、おどろくほど、しずかでした。子どもたちは、そこで、ボールを投げたり、なわとびをしたりして、遊びました。
 横町の片がわに、一軒の古物店がありました。竹夫は、いつからともなく、ここのおじさんと、なかよしになりました。おじさんは、いつも、店にすわって、新聞か雑誌を読んでいました。まだ、そう年よりとは思われぬのに、頭がはげていました。
 竹夫は、そのそばへ腰かけて、なにか、おもしろいものがありはしないかと、店の中を見まわしました。ほんとうに、いろいろのものが、ならべてありました。しかし、たいてい名を知らぬものばかりです。それに、むかしのものが多く、いまはつかっていない品なので、どうして、これがいいのか、ただ見るだけでは、美しいというよりか、むしろきたならしい感じがしたのでした。
「おじさん、あれは、女の顔なの。それとも、男の顔なの。」と、竹夫が、柱にかかっている、面をさして聞きました。どちらにも見えるからでした。
「あの、お能の面か。女の顔さ。あれは、なかなかよくできているのだよ。」
 こう、おじさんに聞くと、なるほど、どことなくけだかさがあり、それでいて、いまにもにっこりわらいそうです。
「やさしくて、いいお顔だね。」
「わかるかな。は、は、は。」と、おじさんは、きげんがいいのでした。
 竹夫は、このぱっとしない、ねむるような店の中に、さがしだされるのを待っている、美しいものがあるのを、感じました。
「あの、りゅうがかいてある香炉の頭は、ししの首なんだね。」と、台にのっている、そめつけの香炉を、竹夫はさしました。
 おじさんは、にこにこして、新聞を下におき、めがねごしに、竹夫を見つめながら、
「きみは、なかなかいいものに目がつく。感心だ。いまから、研究心をもって、古い美術に趣味をもてば、いまに目があかるくなる。まことにいいことだ。これは、中華民国の二千年ばかりも前のものだよ。」と、おじさんは、手をのばして、わざわざ香炉をとりあげ、竹夫にわたしました。
「よくごらん、めったに、こんな、胸のすくようなものは、見られないから。」と、ひとりで、おじさんは、感心しました。
 香炉にかいてあるりゅうの色も、また、ししのすがたも、いきいきとして、新鮮で、とうてい二千年もたつとは、思えませんでした。それに、いいにおいがするので、竹夫は、ふたを鼻にあてて、どんな人が、この香炉を持っていたかと、はるかな過去を想像したのでした。
「おじさん、いいにおいがするね。」
「この香炉をだいじに持っていた人が、たいたのだが、よほどのいい香とみえる。」
 おじさんは、竹夫から、香炉をうけとると、また、もとのごとく、台の上にのせました。そのそばに、ニッケル製の、足の長い、青いかさをかぶった、ランプがありました。
「おじさん、あの…

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