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日の当たる門
ひのあたるもん |
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作品ID | 51665 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 12」 講談社 1977(昭和52)年10月10日 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 酒井裕二 |
公開 / 更新 | 2017-09-18 / 2017-08-25 |
長さの目安 | 約 10 ページ(500字/頁で計算) |
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きかん坊主の三ちゃんが、良ちゃんや、達ちゃんや、あや子さんや、とめ子さんや、そのほかのものを引きつれて、日の当たっている門のところへやってきました。
「学校ごっこをしようや、さあ、ここへならんで。」と、三ちゃんは命令をしました。けれど、みんなは、まだ学校へ上がっていないので、よく字を知っておりません。
「気をつけ、番号!」
「一、二、三、四っ、五、六、七っ。」
「さあ、まる書け。」
三ちゃんは、ポケットから、白墨を出して、塀に大きなまるを書きました。白墨を持っている子供たちは、めいめい門の上へ、またあちらの塀の上へ、まるを書きましたが、白墨を持っていない子供たちは、ぬかるみのどろんこの中へ棒を入れて、きれいに洗ってある門の前の石畳の上へ、土でまるを書きました。三ちゃんは、みんなの書いたまるをひととおりながめて、さも満足したように、
「うん。」と、うなずきました。
「こんどは、なんにしよう?」
「唱歌だ。あいこく行進曲をうたおう。」
みんなは、声をあわせてうたいました。
「見よ、東海の空あけて、きょく日高くかがやけば、天地の正気はつらつと、希望はおどる大八島……。」
「もういい。あや子さんが、いちばんうまい。達ちゃんはだめ。」と、三ちゃんが、点をつけました。
「僕、もっとうまく歌えるやい。」と、達ちゃんは、不平をいいました。
「こんなこと、もうよしたーと。」と、一人が、叫びました。
「だめ、こんどあっちへいくんだ。原っぱへいって、戦争ごっこをするんだ。気をつけ、前へ!」
三ちゃんは、号令をかけました。そして、自分が、いちばん先頭に立って、テンテンテ、テンテンテ、トテトテト――と、口でらっぱのまねをして、威張っていきました。その後から、みんながついて、あちらの横町の方へまがって見えなくなってしまいました。
ちょうど、そのじぶん、門のある家のお勝手もとのガラス戸が、ガラ、ガラとあく音がしたのです。ほおと両手を赤くした女中が、お使いにいこうとして、門のところまでくるとびっくりしました。
「まあ、どこのわるい子供だろう、こんないたずらをして。」と、しばらく立って、あっけにとられながら、門の上や、石畳の面や、塀に書かれた白い丸や、どろんこの丸を見つめていました。
この家のおじいさんが口やかましいので、毎朝、女中さんは、つめたいのをがまんして、門をふいたり、石畳をゴシゴシとたわしで、みがくのでありました。女中さんは、お使いから帰ったら、またおそうじをやりなおすうえに、塀までふかなければならぬかと思うと、がっかりしてしまったのです。
「このへんには、ほんとうに、わるい子がたくさんいるとみえて、いやになってしまう。」と、ひとり、口の中で、ぶつぶついいながら、出かけていきました。
この通りは、先が止まっているので、あまり人が歩きませんでした。それを幸いにして、また…