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ひばりのおじさん
ひばりのおじさん
作品ID51666
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
初出「せうがく三年生」1938(昭和13)年6月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-11-10 / 2017-10-25
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 町の中で、かごからひばりを出して、みんなに見せながら、あめを売る男がありました。その男を見ると、あそんでいる子供たちは、
「ひばりのおじさんだ。」と、いって、そばへよってきました。
 あき地になっている、すこしのひろばへ、かたから、あめの箱と、下げているかごを下ろしました。
「さあ、お坊ちゃんも、おじょうちゃんも、あめを買ってください。ひばりをはなして見せますよ。」と、男は、こしをおろしながら、子供たちの顔をながめました。だいぶあめが売れると、男は、かごのふたをあけて、
「さあ、とべよ。」と、いわぬばかりに、片手を上げて、後さがりをしました。
 ひばりは、やがて、ピイチク、ピイチク、なきながら、高く、高く、空へ上がりました。そして、このまま、どこへかとんでいってしまいそうに、見えなくなったが、そのうちおじさんが、ピイ、ピイ、笛を鳴らすと、けんとうを、あやまらずに、えんとつや、たてものの間を分けて、すぐ近くへ下りて、またかごの中へ入ってしまいました。
 おじさんは笑いながら、「私のいのちより、大事にしていますよ。」と、いつもいうのでした。
 ある日、おじさんは、いつもの場所へきて、年ちゃんや、義ちゃんや、とめ子さんのいる前で、ひばりをかごからはなしたのでした。
 ピイチク、ピイチク、となきながら、いつものように、ひばりは、空へ高く、高く、上がっていきました。
 このとき、人間の耳には入らなかったけれど、はるかかなたの空で、ピイチク、ピイチクとなき声がしたのであります。
「はてな、どこかしらん。」と、ひばりは、思いました。それで、いっそう声をはり上げたけれど、むこうの声は、すこしも近よるようすがなかったのです。
「いってみよう。」と、ひばりは、その声のする方へ、とんでいきました。青い、青い、野原の上で、二羽のひばりが、たのしそうに、とんでいるのです。
「やっぱり、野原はいいですね。」と、かごのひばりが、いいました。
「町も、にぎやかで、いいでしょうね。」
「私が、よんだとき、なぜこなかったのですか。」
「かわいい子供が、あの黄色くなりかけた麦のはたけにいますので、私たちは、心配で、どこへもいくことができないのですよ。」と、野のひばりが、こたえました。
 日がくれかかると、野のひばりは、麦ばたけの巣の中へ帰りました。そこには、かわいい子ひばりが、お母さんや、お父さんの帰るのを待っていました。ひとり取りのこされたかごのひばりは、
「ああ、やはり私は、かごの中へかえろう。」と、町の方へとんできました。おじさんは、ひばりがいなくなったので、気を、もんでいました。
 そのとき、ピイチク、ピイチク、ひばりの声がしました。おじさんは、よろこんで、ピイ、ビイ、笛をふきました。ひばりは、だんだん地上へちかづくと、じっと自分を見上げているおじさんの顔と、年ちゃんや、義ちゃん、とめ…

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