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へちまの水
へちまのみず
作品ID51673
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
初出「北國新聞」昭和16年2月5日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2018-07-07 / 2018-06-27
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 山へ雪がくるようになると、ひよどりが裏の高いかしの木に鳴くのであります。正雄は、縁側にすわって、切ってきた青竹に小さな穴をあけていました。
「清ちゃんのより、よく鳴る笛を造ってみせるぞ。そして、二人で林へいって、やまがらを呼ぶんだ。」
 彼は、独り言をしながら、注意深く、細い竹に小刀で穴をあけていたのです。しかし、若竹で柔らかくて、うまく思うようにいかなかったのです。庭のすみに、寒竹が生えていました。
 正雄は、庭に降りて、寒竹を切ろうとしたのです。
「あっ、それを切っては、だめよ。お父さんが、大事にしていなさるのだから。」と、姉のとよ子が見つけていいました。
「やはり清ちゃんのところへいって、聞いてこよう。」
 正雄は、駈け出しました。
「清ちゃん、どこに、そんな竹があったの。」
「君、この竹は、枯らしてあるんだぜ。釣りざおにするって、福ちゃんのおじさんが、取っておいたのだけれど、先が折れたからといって、僕にくれたのだ。こんないい竹は、どこを探したって、あるものか。」
「僕も、そんな竹が、ほしいなあ。」
「君も笛を造るのかい。そんなら、残っている竹をあげよう。そして、穴をあけたら、後で、針金で中を一度通すといいよ。」
 清ちゃんは、短い竹と、針金を持ってきて渡しました。
「ありがとう。できたら、林へいって、二人で、小鳥を呼び寄せる、競争をしようじゃないか。」と、正雄は、いいました。
「それには、お寺の林がいいよ。あすこには、やまがらも、こがらも、くるから。」と、清ちゃんが、いいました。正雄は、いい竹が手に入ると喜んで、家へもどってきました。
 また、もとの場所へすわって、笛を造りにかかりました。
「清ちゃんのところへいって、いい竹をもらってきた。」と、姉さんに、いいました。
 姉のとよ子は、弟が、小刀を使う手つきを見ていたが、
「もう、正雄は、あかぎれができたのね。伯母さんの家へいって、へちまの水をもらってくるといいわ。」といいました。
 毎年冬になると、伯母さんの家へ、へちまの水をもらいにいくのでありました。
「こんどの日曜にいって、かきも、もらってこよう。」
 正雄は、そういいながら、笛を造っていましたが、そのうちに、かわいらしい管笛ができ上がりました。口にあてて、息をすい、すいと通しているうちに、ピイ、ピイ、ピーと澄んだ、いい音が出ました。
「姉ちゃん、よく鳴るだろう。」と、さも、うれしそうです。このとき、また、高いかしの木の先刻のひよどりが、飛んできて鳴いたのでありました。
「どれ、清ちゃんと、林へいって、やまがらを呼ぼうや。」と、正雄は、また駈け出しました。いつしか、楽しい秋も過ぎ、雪の降る冬がきました。正雄は、学校の帰りに雪合戦をしたり、雪の上で、相撲を取ったりしたのです。
 それは、はや去年のこととなって、今年の春、正雄は、小学校を卒業した…

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