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僕が大きくなるまで
ぼくがおおきくなるまで
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2020-02-29 / 2020-01-24
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 小学校にいる時分のことでした。ある朝の時間は、算術であったが、友吉は、この日もまたおくれてきたのであります。
「山本、そう毎日おくれてきて、どうするんだね。」と、先生は、きびしい目つきで、友吉をにらみました。そして、その時間の終わるまで、教壇のそばに立たせられたのです。ほかの生徒たちは、先生から宿題の紙をもらったけれど、友吉一人は、もらうことができませんでした。
 鐘が鳴ると、生徒らは、先を争って廊下から外へとかけ出しました。そのとき、良一は、先生が教員室へいかれる後を追ったのです。
「先生、山本くんは、働いているので、遅刻したのです。」と、いいました。
 この意外な報告に、先生は、びっくりしたようすでした。
「そうか、なにをしているのだね。」
 先生は、良一の顔を見られました。良一は、ついこのあいだ、友吉が新聞配達をしているのを見たことを話したのであります。
「よく知らせてくれた。だが、なるたけ時間におくれないようにいってくれたまえ。」
 先生の声は、和らいで、目には、愛情がこもっていました。
 そんなことがあってから、二人の少年は、仲よしとなりました。高等科を卒業するころには、たがいに家庭の状態も異なって、良一は、電気に興味をもつところから、そのほうの学校へいったし、友吉は、農業の学校へ入ることになりました。
「僕も、君と同じ学校へいきたいのだけれど、叔父さんが、農業がいいだろうというし、そうきらいでもないから、そうすることにしたのだよ。」と、友吉は、良一に向かって、いいました。
「学校を出たら、大陸へいきたまえ。」
「君は。」と、友吉は、きき返しました。
「僕も、支那か満洲へいきたいんだが、お母さんが年を老っているから、まだどうするか考えていないのさ。」
「三年も、四年も後のことだから。」
「あは、は、は。」
「学校が異うと、いままでのようにあわれないね。それに、僕の家では、すこし遠くへ越すんだよ。越しても、僕、ときどき遊びにくるから。」
「所を知らしてね。」
 短いズボンをはいた、二人の少年は、いつまでも道の一所に立って、名残おしそうに話をしていました。
 友吉からは、その後なんの便りもなかったのです。やがて、翌年の春がめぐってきました。
 ある日、突然友吉が訪ねてきました。
「小西くん、花を持ってきたから、植えておかない。」と、新聞紙に包んだ、草花を渡しました。香りのする青い花が、咲きかけていました。
「きれいだね、これは、なんという花なの。」
 友吉は、外国種の花の名をいったけれど、良一は、すぐには覚えられませんでした。とにかく、後から鉢を見つけて、植えることにして、友吉を自分のへやへつれてきました。二人は、小学時分の友だちの話をしたり、今度の学校の話をしたりしました。良一の机の上には、電池や、真空管や、コイルや、ヒューズや、いろんなものがなら…

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