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僕の通るみち
ぼくのとおるみち
作品ID51676
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
初出「コクミン一年生」1946(昭和21)年5、6月合併号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2020-03-09 / 2020-02-21
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 僕はまいにち、隣の信ちゃんと、学校へいきます。僕は、時計屋の前を通って、大きな時計を見るのがすきです。その時計は、時刻が正確でした。
 また、果物屋の前で、いろいろの果物を見るのもすきです。どれも美しい色をして、いいにおいがしそうでした。
 僕は、肉屋の前を通るのがきらいでした。だから、なるたけ、店の方を向かないようにして通りました。人間のため働いた牛や馬を食べるのは、かわいそうなことのように思います。
 もう一つ、こまることがありました。魚屋の前に、いつも、赤い、強そうな犬がいることです。
 この犬は、よく人にほえました。また、自転車に乗った人を追いかけました。だから、いつ、自分にも、ほえつくかもしれないからです。
「犬なんか、こわくないよ。」と、信ちゃんはいいました。
 しかし、僕は、ひとりのときは、まわりみちをして、肉屋と魚屋の前を通らないようにしました。
 ある日、信ちゃんは、僕に向かって、
「もう明日からは、いっしょに学校へいかれないね。」といいました。
 それは、信ちゃんの組が、午後からになったためです。
 僕は、悲しくなりました。そうして、二人が魚屋の前にくると、ちょうど、赤犬とよその子供が遊んでいました。
「君、その犬はどこの犬なの?」
 勇敢な信ちゃんが、聞きました。
「さあ、どこの犬かな。いままで飼っていた人がいなくなって、うちがないのだよ。くつ屋のおじさんが、かわいがっているから、くつ屋の犬だろう。」と、男の子が、答えました。
「名は、なんというの?」
「赤といっているよ。」
「人に食いつかない?」
「かまわなければ、食いつきなどしないさ。」
「よくほえるだろう。」と、僕がいいました。
「おかしなようすをした人に、ほえるよ。」と、そばにいた女の子が、答えました。
 信ちゃんは、犬のそばへいって、頭をなでてやりました。
「清ちゃんも、なでておやりよ。」と、信ちゃんが僕にいいました。
 僕はこわくて、どうしてもなでる気になれませんでした。
「なでてやると、君になれるよ。」と、また、信ちゃんがいいました。
 僕がまごまごしているのを見て、よその男の子が、笑っていました。すると、女の子が、
「いやなのを、むりにすると、食いつくかもしれないよ。」といいました。僕は、なでるのをやめました。
 あくる日、僕が、ひとりで学校から帰ると、赤が尾をふって、僕のそばへやってきました。僕はうれしかったので、
「赤や、赤や……。」といって、赤の頭をなでてやりました。
 このごろ、僕は、学校のいきかえりに、赤を見るのが、たのしみです。そうして、その姿を見ないときは、さびしい気がします。
 僕は、女の子のいった言葉を、いつまでも忘れません。



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