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町はずれの空き地
まちはずれのあきち
作品ID51681
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
初出「教育行童話研究」1937(昭和12)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-06-28 / 2017-05-29
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 空き地には、草がしげっていましたが、いまはもう黄色くなって、ちょうど柔らかな敷物のように地面に倒れていました。霜の降った朝は、かえって日が上ると暖かになるので、この付近に住む子供たちは、ここへ集まってきて、たこをあげるものもあれば、ボールを投げて遊ぶものもありました。
 この空き地の中央に、一本の高い松の木がありました。独りぽっちで、いかにもその姿がさびしそうに見えることもあれば、また、さびしいということなど知らぬ聖人のように、いつもにこにことして、子供たちの遊んでいるのを見守るように見えたこともあります。
 この町の子供たちは、みんなこの木を知っていました。たとえ木のそばへ寄って、ものをいいかけなくとも、お母さんが留守でさびしいときや、お父さんにしかられて、悲しかったときは、遠くから、ぼんやりとこの木をながめて訴えたものです。すると、木は、
「私のところへおいで。」と、手招きするように、なぐさめてくれたものでした。
 だから、もし、この広場に、工場でもできるとか、また、道が通るとかいうようなことがあって、この木を切る話でも持ち上がったなら、おそらく、この辺の子供たちはどんなに悲しむことかしれません。悲しむばかりでなく、
「あの木を切るのは、かわいそうだ。」といって、大人たちに向かって、同意を求め、この木を切ることに反対したでありましょう。
 その、多くの子供たちの中にも、立雄くんや、博くんは、いちばんこの高い松の木を愛している少年でした。他の子供たちが、いろいろのことをして遊んでいるのに、二人は、みんなから離れて、松の木の下にきて、枯れ草の上にすわって話をしていました。
「きれいな、空だなあ。」と、ふいに、大空を見上げて、博くんが、いいました。
「まだ、春にはなかなかなんだね。早く春がくるといいなあ。」と、立雄くんは、赤みを帯びた、松の木の幹をながめて、去年の春、遠足にいって田舎道を歩いたときの景色を思い出したのです。
「ごらんよ。あの白い雲は、ちょうど松の木の上にいるから。」と、博くんが、いいました。
「松の木と、雲と、話をしているのだね。」と、立雄くんが、答えました。
 二人の少年は、松の木の頂と、さらにはるかに高く、遠い、青い空に浮かぶ、白雲を見上げて笑っていました。
「どんな話をしているのだろう?」
「きっと、雲さん、君は、どこへでも飛んでいけておもしろいだろうな、と、松の木がいっているのだよ。」と、立雄くんが、いいました。
「僕はね、松の木くん、君はいつも地の上で平和に暮らされてうらやましい。美しい鳥が止まったり、子供たちの遊ぶのを見たりして、愉快だろう。私は、風に吹かれてこうして、海の上や、野原の上を、毎日あてなく飛んでいると、雲がいっているのだと思うな。」と、博くんが、いいました。
 そのうち、おひるの汽笛が鳴ったので、二人は、草の上から起…

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