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窓の内と外
まどのうちとそと
作品ID51682
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
「僕の通るみち」 南北書園
1947(昭和22)年2月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2018-01-26 / 2017-12-26
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 白と黒の、ぶちのかわいらしい子ねこが、洋服屋の飾り窓のうちに、いつもひなたぼっこをしていました。そのころ、政一は、まだ学校へ上がりたてであった。その店の前を通るたびに、おもちゃのねこがおいてあると思っていました。ところが、ある日、そのねこが起き上がって、脊のびをしたので、
「おや、生きているのだな。」と、びっくりしました。
 ねこを好きな政一は、それから、この洋服屋の前を通ると、かならず店のうちをのぞくようになりましたが、太陽の当たらないときは、ねこの姿を飾り窓では見ませんでした。
 月日がたって、いつしか政一は、上級生となりました。彼は、また釣りが大好きなので、祭日や、日曜日などには、よく釣りに出かけました。だれでも、子供の時分は、魚釣りが好きなものですが、政一ときては、日に、二、三回もいくようなこともめずらしくなかったのです。それは、川がそう遠いところでなかったからでありましょう。片手にブリキかんをぶらさげて、片手にはさおを持ち、いつも帽子を目深にかぶって、よくこの洋服屋の前を通ったのでありました。
 そのころは、とっくに、ねこがいなかったから、彼は、ねこのことなど忘れてしまいました。ただガラス窓にうつる、彼の姿が、学校へ上がりたてのころから見れば、おどろくほど大きくなっていました。思い出したように、彼はまぶしい空を見上げたが、釣りのことよりほかには、なにも考えていませんでした。
 このとき、店のうちで、眼鏡をかけて仕事をしていたおじいさんは、じっと少年の姿を見送っていました。
「あのお子さんも、大きくなったものだ。しかし今日は、風向きがおもしろくないから、釣りはどうだかな。」と、おじいさんはひとり言をしたのでした。
 政一のお母さんは、よくこの店へきて、政一の洋服の修繕をお頼みになりました。ちょうど、その日の晩方のことです。いつものように、お母さんは、洋服屋へこられて、こんどは、政一が、新学期から着るための新しい服を、お頼みなさったのでした。
「いままでのは、もう小さくなって着られなくなりましたから、新しいのをこしらえてやろうと思います。」と、お母さんは、おっしゃいました。
 これを聞くと、おじいさんは、にこにこしながら、
「きょう、坊ちゃんがさおを持って、前をお通りになりましたが、釣れましたか。しかし、よく私の直してあげました服を、こんなになるまで我慢して着てくださいました。感心なことです。何分戦後で、品物がないのですから。」と、おじいさんが、いいました。
「このまえ、こんどこれが切れたら、新しくなさいと、念を入れて修繕してくださったおしりのところが、こんなに破れましたし、それに、急に体が大きくなりましたので、新しくこしらえてやろうと思います。」と、お母さんも笑って、お答えになりました。
 おじいさんは、鼻先から、眼鏡をすべり落ちそうにして、うなず…

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