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緑色の時計
みどりいろのとけい
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 14」 講談社
1977(昭和52)年12月10日
初出「幼年ブック」1948(昭和23)年6月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2020-03-20 / 2020-02-21
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 おじさんの髪は、いつもきれいでした。そして、花畑でも通ってきたように、着物は、いいにおいがしました。そわそわと、いそがしそうに、これから、汽車に乗って、旅へでもでかけるときか、あるいは、どこか遠くから、いま、汽車でついたばかりのように、その目はいきいきとしていました。
 事実、おじさんは、方々へでかけたし、ぼくたちの知らない町で、めずらしいものを見たり、いろいろの人々とあって、聞いたおもしろい話を、ぼくたち兄弟にしてくれたのでした。
 ある日のこと、
「ぼく、望遠鏡が、ほしいな。」といったのです。すると、おじさんが、
「じゃ、いい望遠鏡を、さがしてやろうかな。」といいました。
「遠くが、見えるんだよ。」
「船乗りが、持つようなのさ。」
「そんなの、あっても、高いだろう。」
「なに、出ものなら、たいしたことはない。」
 こんなぐあいに、おじさんの口から聞くと、なんとなく、はや、自分は、のぞみを達したもののように、うれしくなるのでした。
 また、ある日のことでした。弟が、
「どこかに、スケートのくつが、ないもんかな。」と、思いだしたように、いいました。
「なに、きみは、スケートができるのかい。」と、おじさんが、聞きました。
「おけいこをしたいんだよ。」
「そんなら、S町の夜店へいってごらん。あのへんには、外人の家族が、たくさんきているから、出ないともかぎらない。」
 まったく、雲をつかむような話なのだけれど、おじさんのいうことを聞くと、なんとなく、そうかもしれぬと思うのです。
「S町へいってみるかな。」と、弟が、いいました。すると、おじさんが、
「この時計も、あすこの露店で買ったのだ。スイス製のなかなか正確なやつで。」と、おじさんは、時計をうでからはずして、ぼくたちに見せました。
 ぼくは、まえから、いい時計だなと思っていたのでした。形がめずらしく、長方形をして、緑色のガラスが、はまっていました。手にとってみるのは、はじめてだけれど、するどい、ぜんまいの音が、チッ、チッとしています。
「ほかに、いいのを見つけたら、これを正ちゃんにあげるよ。」と、おじさんは、わらいながらぼくの顔を見ました。ぼくには、思いがけないことだったので、
「ほんとう?」と、聞きかえしました。
「ほんとうとも。だが、すぐではないよ。いいのを見つけてからだぜ。」と、おじさんは、いいました。
 あとで、このことをねえさんに話すと、
「そんなこと、あてにしないほうがいいわ。」と、ねえさんは答えて、せっかくのぼくのよろこびをうちけしました。
「じゃ、うそだというの。」と、ぼくは、ねえさんにせまりました。
「だって、あの人のいうことは、いつもゆめのような話じゃないの。」
 そういわれれば、そんなような気もするけれど、ぼくは、おじさんの話には、いつもひきつけられるのでした。
「正ちゃんは、うそをつくよ…

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