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芽は伸びる
めはのびる
作品ID51695
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-05-28 / 2017-04-19
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 泉は、自分のかいこが、ぐんぐん大きくなるのを自慢していました。にやりにやり、と笑いながら、話を聞いていた戸田は、自分のもそれくらいになったと思っているので、おどろきはしなかったが、誠一は、ひとり感心していました。お母さんが、きらいでなければ、自分もかいこを飼いたいのです。なんでお母さんは、あんな虫が怖いのだろう。お母さんや、妹が、かわいい顔をしているかいこを、気味わるがっているのが、不思議でたまらなかったのであります。そこへ、ちょうど理科の長田先生が通りかかられました。
「君たち、なにをしているね。」と、みんなの顔を見て笑っていられたのです。
「おかいこの話をしていたのです。先生、僕のおかいこは大きくなりました。」と、泉が、いいました。
「そうか、学校のと、どっちがいい繭を造るかな。」
「競争するといいや。」と、戸田がいいました。
「君も、飼っているのかね。」
「飼っています。」
 ひとり誠一がだまっているので、先生は誠一の顔をごらんになって、
「南、おまえは。」と、お聞きになりました。
 誠一は、こないだ先生がみんなにかいこを飼ってみるようにおすすめなさったのを覚えています。自分だけ飼わぬと答えるのは、なんだか理科に対して、不熱心に思われはせぬかと考えたので、
「僕、かいこを飼いたいのですけれど、かいこがないのです。」といいました。
「ほんとうに飼うなら、学校のを四、五匹あげよう。あとからきたまえ。」といって、先生は、誠一の頭をぐりぐりとなでて、彼方へいってしまわれました。三人は先生の後を見送っていましたが、たがいに心の中でやさしい先生だと思ったに、ちがいありません。
「じゃ、みんなで、競争しようか。」と、泉が、いいました。
「いいとも。」と、戸田が、答えました。
 まったく経験のない、そして、どうするかも知らない誠一は、すぐに返事ができなかったのです。
 誠一は、
「むずかしいだろうね。」と、心もとなさそうに、いいました。
「僕、よく教えてあげるよ。お菓子の空き箱と、あとでわらがあればいいんだよ。」と、戸田が、勇気づけてくれました。
「それに、桑の葉がないのだが。」
「桑の葉なら、僕、明日学校へ持ってきてあげる。びんの中へ水を入れてさしておきたまえ。」と、泉が、教えました。



 誠一は、先生が、大きな桑の葉の上へ、かいこを七匹ばかり、のせて渡してくだされたのをありがたくいただきました。さあこれをどうして持って帰ったらいいだろう。紙もなかったので、葉の上にのせたまま、それを手のひらで支えて、そろそろ歩いて、学校の門から一人出たのであります。
 うすい、白雲を破って、日光はかっと町の建物を照らしていました。車が通ります。自転車が走っていきます。そのあわただしい景色に心を奪われるでもなく、誠一は、ゆっくり、ゆっくり、おかいこを見守りながら、道を歩…

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