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作品ID | 517 |
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著者 | 北 一輝 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本の名随筆 別巻17 遺言」 作品社 1992(平成4)年7月25日 |
入力者 | 渡邉つよし |
校正者 | 田村隆 |
公開 / 更新 | 2000-07-19 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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遺書
大輝よ、此の経典は汝の知る如く父の刑死する迄、読誦せるものなり。
汝の生るると符節を合する如く、突然として父は霊魂を見、神仏を見、此の法華経を誦持するに至れるなり。
即ち汝の生るるとより、父の臨終まで読誦せられたる至重至尊の経典なり。父は只此法華経をのみ汝に残す。父の想ひ出さるる時、父の恋しき時、汝の行路に於て悲しき時、迷へる時、怨み怒り悩む時、又楽しき嬉しき時、此の経典を前にして南無妙法蓮華経と唱へ、念ぜよ。然らば神霊の父直ちに汝の為に諸神諸仏に祈願して、汝の求むる所を満足せしむべし。
経典を読誦し解脱するを得るの時来らば、父が二十余年間為せし如く、誦住三昧を以て生活の根本義とせよ。即ち其の生活の如何を問はず、汝の父を見、父と共に活き、而して諸神諸仏の加護、指導の下に在るを得べし、父は汝に何物をも残さず、而も此の無上最尊の宝珠を留むる者なり
昭和十二年八月十八日
父 一輝