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ペスときょうだい
ペスときょうだい
作品ID51725
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 14」 講談社
1977(昭和52)年12月10日
初出「幼年クラブ」1948(昭和23)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2019-06-05 / 2019-05-28
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 風の吹くたびに、ひからびた落ち葉が、さらさらと音をたて、あたりをとびまわりました。空はくもって、木の枝がかなしそうにうごいています。急にお天気がかわりそうでした。
「雪がふると出られなくなるから、ちょっと、となり村まで用たしにいってくる。」と、父親は、身じたくをしながら、いいました。
「その間にぼくは、外につんであるまきをかたづけておこう。」と、兄の太郎がいいました。
「あまり暗くならぬうちに、お父さん、かえっていらっしゃい。」と、弟の秀吉はいいました。
「ご飯がにえたら、お母さんにあげて、先に食べておしまい。」と、父親は、戸口で兄弟に注意して、空をながめていましたが、
「寒さがちがうから、今夜は雪だろう。」と、いいました。
 このとき、ペスは犬小屋でねていました。いつもなら、とびだしてきてあとをおうのですが、どうしたのか、音もたてなければ、姿も見せませんでした。
「ペスをつれていかないの。」と、太郎がいいました。
「ねているなら起こさずにおいておやり。」と、そのことばには、やさしみがありました。そして、もう父親は、門の方へ歩いていたのでした。
 兄弟は、しばらくそこに立って、父親のうしろ姿を見おくりましたが、見えなくなると、
「ペスのやつ、気分がわるいのかな。」と、弟の秀吉は、小屋をかえりみながら、まず口をひらきました。
「なに、おうちゃくなんだ。きげんのいいときはしかってもついてくるが、わるいときはよんでもきやしない。」と、兄の太郎は、いまいましそうにいいました。
「しかし今日は、気分がわるいのだろう。」と、秀吉はペスの弁護をしました。あまり兄がおこっていたからでした。
「だってそうじゃないか。お父さんはペスの恩人なんだぜ。犬ころしにつれられていくところを、お金をやってたすけなさったんだ。こんな小さいうちに命をとられるのは、かわいそうだといって。」と、太郎がそのときのことを思い出していうと、
「ほんとうにうちへきたときは、ころころとしてかわいらしかったね。」と、秀吉もうなずきました。
「そのご恩をわすれては……。」
「ペスはありがたく思っているんだよ。家じゅうで、いちばんお父さんになついているだろう。」
「それならこんな日にこそ、おともをするのがほんとうなのだ。」と、兄は口こごとをしながら、前のあき地につんであったたきぎを一本ずつとりあげて、長いのをのこぎりでひき、太いのはなたでわって、てごろにできあがったのから、なわでくくりはじめました。また弟は、炉に松葉をくべたり鉄びんをかけたりして、夕飯のしたくをしていました。お母さんがかぜをひいてねていられたので、いいつけられた用事をしているのでした。
 北風の吹くたびにかさこそと、まどの外では木の葉のとぶけはいがしました。
 そのとき、力のこもるちょうしで、ドント、ドント、ドント、ナミノリコエテ……と、兄がは…

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