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![]() こいのぼりとにわとり |
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作品ID | 51747 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 4」 講談社 1977(昭和52)年2月10日 |
初出 | 「コドモアサヒ」1924(大正13)年5月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 栗田美恵子 |
公開 / 更新 | 2019-05-05 / 2019-04-26 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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泉水の中に、こいと金魚が、たのしそうに泳いでいました。しかし、黒いねこが、よくねらっていますので、ゆだんができませんでした。いつ、つかまえられて、食べられてしまうかしれないからです。
「私が、見張りをしてあげましょう。」と、毎日、泉水のほとりで遊んでいる鶏がいいました。鶏は、すばしこかったから、けっして、ねこにとらえられるようなことはありませんでした。
「どうぞ、おたのみいたします。」と、こいと、金魚はいいました。
鶏は、毎朝小舎の屋根に飛び上がって、いい声で、ときをつくりました。そして、黒いねこが泉水の近くを歩いていると、コケッコ、コケッコといって、泉水の中の金魚や、こいにも、注意をしたのであります。
すると、金魚も、こいも、水の中に深く、くぐってしまいました。
「なんと羽のあるものは、自由じゃないか。」と、鶏はいって、金魚や、こいに対して、威張りました。金魚や、こいは、なんといわれてもしかたがなかったのです。
「あなたは、ほんとうにえらい。」といっていました。
ある朝、金魚や、こいが目をさまして、上を見ますと、小舎より、もっと高く、空に大きなこいのぼりが、ひらひらとしていました。こいは、これを見ると、喜びました。
「あんなに、大きな仲間が、あすこへやってきた。もう、鶏のお世話にならなくても、あの仲間が、黒ねこのきたのを知らせてくれるだろう。」と、こういいました。
「鶏さん、長い間、ありがとうございました。しかし、私らの仲間が、あんなに高いところへきたから、もうだいじょうぶです。」と、こいが、鶏に向かっていいますと、鶏も、これからは威張られなくなったと、元気がありませんでした。
太郎さんは、その晩、こいのぼりを家へいれるのを忘れました。そして、夜中から、ひどい雨になったのであります。
夜が明けてから、金魚や、こいが上を見ますと、大きなこいのぼりは、雨にぬれて破れて見る影もありませんでした。
「おまえの仲間というのは、あれは、なんだい。」と、鶏はいって笑いました。そして、勝ちほこったように、小舎の屋根へ上がって、ときをつくりました。