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チューリップの芽
チューリップのめ |
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作品ID | 51748 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 4」 講談社 1977(昭和52)年2月10日 |
初出 | 「子供之友」1924(大正13)年3月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 栗田美恵子 |
公開 / 更新 | 2019-05-05 / 2019-04-26 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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チューリップは、土の中で、お母さんから、世の中に出てからの、いろいろのおもしろい話をきいて、早く芽を出したいものと思っていました。
「ちょうちょうは、どんなに、美しいの?」と、お母さんにたずねたりしました。
「そんなに、いそいではいけません。いい時分になったら、お母さんがいってあげます。それまでは、おとなしくして、待っておいでなさい。」と、お母さんは、さとされました。
けれど、今年出るチューリップは、がまんしていることができませんでした。
「お母さん、もう、芽を出してもいいでしょう。」といいました。
「いいえ、まだ、いけません。」と、お母さんは許されなかったのです。
けれど、とうとうチューリップは、がまんができなくなって、銀色のかわいらしい芽を土の上へ出しました。
なんという明るい世界でありましたでしょう。けれど、まだ、すこし早かったので、太陽は遠く、風が寒うございました。かわいらしいチューリップは、身ぶるいしなければなりませんでした。
しかし、一度、芽を出したからは、もはやどうすることもできませんでした。チューリップは、土の中の暗い世界が恋しくなって、お母さんのいうことを聞かなかったことを後悔しました。
このとき、畑をみまってきた、しんせつなおじいさんは、チューリップの芽が、ふるえているのを見て、「ああ、まだすこし早い。いま出たら霜に傷んでしまおう。」といって、くわで、チューリップの頭の上へ、土をかけてくれました。
チューリップは、ふたたび、暖かな世界へはいって、春のくるのを待つことになりました。