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北と南に憧がれる心
きたとみなみにあこがれるこころ |
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作品ID | 51760 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「芸術は生動す」 国文社 1982(昭和57)年3月30日 |
入力者 | Nana ohbe |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2012-01-14 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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常に其の心は、南と北に憧がれる。
陰惨なペトログラードや、モスクワオの生活をするものは、南露西亜の自然と生活をどんなに慕うだろう。また、囚人の行くシベリヤをどんなに眼に描くだろう。彼等は憧がれなしには生きられない人々である。
小露地方や、北コーカサスの自然は、詩趣に富んで、自由な気が彼等の村落生活に行きわたっていることは、トルストイ、ゴリキイ、其他の作家の作品に描かれている。フィンランドは、世界中で、一番生活のしよい処だということであった。而して陰惨なペトログラードの生活はドストエフスキイ、アルツィバシェフ其他の作家によって覗われる。
シベリヤの自然と生活は、殊に囚人の生活の惨憺たるものであることは、ドストエフスキイの作を読んだものはすべて知るところであろう。其れに憧がれる、理想主義者の心持を面白く思うと同時に、またお伽噺の中にあるような黒海沿岸を慕う心持に於て、いつもたまらない人間性の面白味を独り露西亜文学に感ずる。