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犬は鎖に繋ぐべからず
いぬはくさりにつなぐべからず |
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作品ID | 51828 |
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著者 | 岸田 国士 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「岸田國士全集4」 岩波書店 1990(平成2)年9月10日 |
初出 | 「中央公論 第四十五年第六号」1930(昭和5)年6月1日 |
入力者 | kompass |
校正者 | 門田裕志 |
公開 / 更新 | 2012-04-03 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 46 ページ(500字/頁で計算) |
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人物
今里念吉
同 二見
同 甲吉
黒林家の女中ため
酒屋の御用聞
大串葉絵
片倉州蔵の妻まつの
女の子
百瀬鬼骨
郵便配達
男の子
歩兵大尉島貫
片倉州蔵
平大野球部選手越水
同 クマソ
同 ヤモリ
近所の人櫛谷
同 尾畑
同 黒林
同 両角
同 岩城
同 藤巻
隠居多胡鵺人
近所の人A
同 B
同 C
時 現代
所 東京の郊外――最近水田を埋立てた第七流住宅地。
[#改ページ]
第一場
今里念吉の住居。正面に磨硝子戸入りの玄関。右手に杉丸太の門柱。玄関の右に渋塗りの洋館。左手に座敷と茶の間。芝生の庭に手製のブランコ。椽に近く粗末な犬小屋。
初夏の午後。
息子の甲吉(八歳位)が、三輪車に乗つて外から帰つて来る。椽側から奥に向ひ、発育不良の声で母を呼ぶ。
甲吉 ママア! ママア!
声 (奥で)なんです、そんな声を出して……。(二見、菜箸をもつたまゝ現れる)駄目ですよ、静かにしなくつちや……。パパは今御勉強なんだから……。
甲吉 (それにかまはず)ママア、僕、落第坊主ぢやないねえ。
二見 落第なんかするもんですか。からだが弱いから、先生と御相談して、一年学校を休むことにしたんです。第一、学校へは一と月も行きやしないぢやありませんか。
甲吉 それから、うちのペスは野良犬ぢやないねえ。
二見 野良犬なもんですか。あれは、お前のお友達にと思つて、一昨年、湧山さんからいたゞいたんですよ。種類は忘れたけれど、ちやんと素性のわかつた犬です。パパがもう少し手入れをして下されば、毛並だつて、この辺のどこの犬にも負けやしません。
甲吉 そんならね、ママ、うちのパパは、英語よりほか、なんにも出来ないつて、ほんと?
二見 英語の先生なら、英語だけできれば沢山ぢやありませんか。いろんなことが少しづゝ出来るよりも、一つのことが立派に出来る方がいゝんですよ。一体全体、誰がそんなことを云ふの?
甲吉 僕のことを落第坊主つて云つたのは、ケンちやんだよ。
二見 ペスのことを野良犬だつて云つたのは……?
甲吉 それはね、坊つちやん……。
二見 また、「坊つちやん」なんて云ふんぢやありません。「ツルヲさん」つておつしやい。それから、パパのことをなんとか云つたのは……?
甲吉 忘れちやつた……。(彼は三輪車を運転して、また外へ遊びに行かうとする)
二見 もう御飯だから、お家にいらつしやい。余計なことを云ふ子供たちと遊ばなくつたつていゝのよ。
近所で、また、ピアノの練習を始めたらしい。単調な音階がうるさく繰り返される。
二見 (洋館の方に行き)パパ、あと十分で御飯にしますから、そろそろ、おつむをお休めになつてね。甲吉が帰つてますわ。
やがて、主人の念吉が座敷に現れる。
念吉 (にやにや笑ひながら、口吟むやうに)
“O miserable of h…