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![]() たのもしききゅうえん(ひとまく) |
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作品ID | 51833 |
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著者 | 岸田 国士 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「岸田國士全集4」 岩波書店 1990(平成2)年9月10日 |
初出 | 「週刊朝日 第十七巻二十七号」1930(昭和5)年6月22日 |
入力者 | kompass |
校正者 | 門田裕志 |
公開 / 更新 | 2012-04-27 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 21 ページ(500字/頁で計算) |
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[#ページの左右中央]
人物
十倉奥造 五十
娘 汲子 二十二
和久井幕太郎 二十八
従兄亜介 三十一
平木曾根 四十
[#改ページ]
ある結婚媒介所の見合室――二階。
洋風にしつらへた八畳の日本間――事務室とも応接室ともつかぬ家具装飾。所長平木曾根が、十倉奥造と、その娘汲子を案内してはいつて来る。
曾根 (右手の椅子を薦め)さ、お嬢さまはこちらがおよろしうございませう。あんまり明るくなくつて……。
奥造 なに、明るくつてもかまひません。明るい方が結構です。器量だけは、これでも、羞かしくないつもりですから……。
汲子 いやなお父さんね。
曾根 ですから、こつちは、お写真だけで及第ですわ。今日は、あちらをよく御覧になれるやうに、さう申し上げたんです。さ、どうぞ、お父さまは、こちらへ……。(自分も傍らの椅子に腰をおろす)
奥造 もう、いらしつてるんですか。
曾根 はあ、もう、とつくに……。あちらは、それこそ、一所懸命でいらつしやいますよ。先達も申上げましたとほり、金満家のお後取だけあつて、どこか鷹揚なところがおありになるもんですから、従兄さんとおつしやる方が、いろいろ、御心配なさいましてね。今日も御一緒に見えてるんでございますよ。その方のお話ですけれど、御当人は今度の話が駄目になつたら、一生結婚はしないつておつしやるんださうです。御冗談にでもさう決心をなすつてらつしやるくらゐですから、余程お気に召したんですわ。
奥造 この間もお話いたしましたやうに、たゞの縁談なら降るほどあるんですが、当人の希望で、広くチヤンスを求めたいといふわけなんです。御商売に違ひありませんが、早く纏めようといふ御方針だけは、ひとつ、お忘れ願ひたいもんです。なるべく数多くの方に御紹介願へれば、甚だ有りがたいわけで……。
曾根 かしこまりました。でも、こちらでも、ひと通り選択はいたしませんとね。頭から問題にならないやうなお話を申上げたところで……お嬢さまの条件は、なかなかむつかしいんですからね。(眼で笑ふ)
汲子 あ、あの一番しまひの箇条に、但し書を附け加へたいんですけれど……。
曾根 あの上にですの? どんなことでせう?
汲子 そら、よくなんかしながら、鼻声で歌を唱ふ人があるでせう。あれも、あたくし、いやなんですの。
曾根 さうすると、ちよつと待つて下さい。
(次の間に行く)
汲子 (父に)洋行したつていふのは、どこへ行つたんだか、今日訊いて頂戴ね。
奥造 よし。
汲子 それから専門のこともはつきりいつてくれなけれや困るわ。会社の重役だつていつたり、研究論文を書いてるつていつたり、さうかと思ふと、これから何か事業を起すんだつていつてみたり、さういふあやふやな地位ぢや困るわ。
奥造 よし。
曾根 (現れ)失礼いたしました。(…