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六百五十句
ろっぴゃくごじっく
作品ID51841
著者高浜 虚子
文字遣い新字新仮名
底本 「虚子五句集(下)〔全2冊〕」 岩波文庫、岩波書店
1996(平成8)年10月16日第1刷
入力者岡村和彦
校正者木下聡
公開 / 更新2023-04-08 / 2023-03-27
長さの目安約 41 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



『ホトトギス』が六百五十号に達したことを記念するために、六百五十句を選んだ。
 これは号数に多少の食い違いがあるが、それは「句日記」(自 昭和二十一年[#改行]至 昭和二十五年)を材料にしたためである。
昭和三十年四月
鎌倉草庵にて
高浜虚子
[#改丁]
[#ページの左右中央]



昭和二十一年

[#改ページ]



風の日は雪の山家も住み憂くて

彼の人の片頬にあり初笑

初笑深く蔵してほのかなる

京洛の衢に満つる初笑

里人の松立てくれぬ仮住居
一月五日 立子等と共に稽古会。小諸山廬。

覆とり互に見ゆ寒牡丹

いづくとも無く風花の生れ来て
一月六日 稽古会つゞき。

炬燵より背低き老となられけり

悴みてうつむきて行きあひにけり
一月六日 引つゞき桃花会。桃花邸。

有るものを摘み来よ乙女若菜の日

何をもて人日の客もてなさん

霜やけの手にする布巾さばきかな
一月七日 土筆会。小諸山廬。

外に立ちて氷柱の我が家佗しと見
一月八日 土筆会つゞき。
みづほ母堂逝く
おのづから極楽へとる恵方道
一月八日

山の雪胡粉をたゝきつけしごと

幾何の寒さに耐ゆる我身かも

大雪の家や各々住めりけり

訪ひ来るや雪の門より人つゞき
一月十二日 稽古会。小諸山廬。

日凍てゝ空にかゝるといふのみぞ

冬籠障子隔てゝ人の訪ふ

小包で届く薬や冬籠

厳といふ字寒といふ字を身にひたと
一月十三日 稽古会つゞき。小諸山廬。

煮凝を探し当てたる燭暗し
一月十九日 稽古会。小諸山廬。

寒燈の下に文章口授筆記

耳袋とりて物音近きかも

耳袋して当りをる炬燵かな
一月二十日 稽古会つゞき。小諸山廬。

探梅や序でに僧に届けもの

水仙や母のかたみの鼓箱
一月二十六日 稽古会。小諸山廬。

何物かつまづく辻や厄落し

我行けば枝一つ下り寒鴉

見下ろしてやがて啼きけり寒鴉
一月二十七日 稽古会つゞき。小諸山廬。

針金にひつかゝりをる雪の切れ

雪解の俄に人のゆきゝかな
二月二日 稽古会。小諸草庵。

道ばたの雪の伏屋の鬼やらひ

雪の後雨となりけり寒明くる

一百に足らず目出度し年の豆

節分や鬼もくすしも草の戸に
二月三日 稽古会。小諸草廬。

山人の雪沓はいて杖ついて

雪の上に流しかけをり麦の肥
二月十日 稽古会。小諸草廬。

世の中を遊びごゝろや氷柱折る
二月十一日 稽古会。小諸草廬。

溝板の上につういと風花が

風花はすべてのものを図案化す

鍬かつぐ男女ゆき合ひ畑打

紫と雪間の土を見ることも
二月十六日 稽古会。小諸草廬。

田一枚一枚づゝに残る雪

煎豆をお手のくぼして梅の花

急流になか/\に生ふ水草かな
二月十七日 稽古会。小諸草廬。

春めきし人の起居に冴え返る
二月二十三日 土筆会。鎌倉草庵。

雛あられ染める染粉は町で買ひ

美しき…

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