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かもめ
かもめ
作品ID51860
副題――喜劇 四幕――
――きげき よんまく――
原題ЧАЙКА
著者チェーホフ アントン
翻訳者神西 清
文字遣い新字新仮名
底本 「かもめ・ワーニャ伯父さん」 新潮文庫、新潮社
1967(昭和42)年9月25日
入力者米田
校正者阿部哲也
公開 / 更新2010-12-24 / 2014-09-21
長さの目安約 109 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

人物
アルカージナ(イリーナ・ニコラーエヴナ) とつぎ先の姓はトレープレヴァ、女優
トレープレフ(コンスタンチン・ガヴリーロヴィチ) その息子、青年
ソーリン(ピョートル・ニコラーエヴィチ) アルカージナの兄
ニーナ(ミハイロヴナ・ザレーチナヤ) 若い処女、裕福な地主の娘
シャムラーエフ(イリヤー・アファナーシエヴィチ) 退職中尉、ソーリン家の支配人
ポリーナ(アンドレーエヴナ) その妻
マーシャ その娘
トリゴーリン(ボリース・アレクセーエヴィチ) 文士
ドールン(エヴゲーニイ・セルゲーエヴィチ) 医師
メドヴェージェンコ(セミョーン・セミョーノヴィチ) 教員
ヤーコフ 下男
料理人
小間使

ソーリン家の田舎屋敷でのこと。――三幕と四幕のあいだに二年間が経過
[#改ページ]

第一幕

ソーリン家の領地内の廃園の一部。広い並木道が、観客席から庭の奥のほうへ走って、湖に通じているのだが、家庭劇のため急設された仮舞台にふさがれて、湖はまったく見えない。仮舞台の左右に灌木の茂み。椅子が数脚、小テーブルが一つ。

日がいま沈んだばかり。幕のおりている仮舞台の上には、ヤーコフほか下男たちがいて、咳ばらいや槌音が聞える。散歩がえりのマーシャとメドヴェージェンコ、左手から登場。

メドヴェージェンコ あなたは、いつ見ても黒い服ですね。どういうわけです?
マーシャ わが人生の喪服なの。あたし、不仕合せな女ですもの。
メドヴェージェンコ なぜです? (考えこんで)わからんですなあ。……あなたは健康だし、お父さんにしたって金持じゃないまでも、暮しに不自由はないし。僕なんか、あなたに比べたら、ずっと生活は辛いですよ。月に二十三ルーブリしか貰ってないのに、そのなかから、退職積立金を天引きされるんですからね。それだって僕は、喪服なんか着ませんぜ。(ふたり腰をおろす)
マーシャ お金のことじゃないの。貧乏人だって、仕合せにはなれるわ。
メドヴェージェンコ そりゃ、理論ではね。だが実際となると、そうは行かない。僕に、おふくろ、妹がふたり、それに小さい弟――それで月給がただの二十三ルーブリ。まさか食わず飲まずでもいられない。お茶も砂糖もいりますね。タバコもいる。そこでキリキリ舞いになる。
マーシャ (仮舞台のほうを振向いて)もうじき幕があくのね。
メドヴェージェンコ そう。出演はニーナ嬢で、脚本はトレープレフ君の書きおろし。ふたりは恋仲なんだから、今日はふたりの魂が融合して、同じ一つの芸術的イメージを、ひたすら表現しようという寸法でさ。ところが僕とあなたの魂には、共通の接点がない。僕はあなたを想っています。恋しさに家にじっとしていられず、毎日一里半の道を、てくてくやって来ては、また一里半帰っていく。その反対給付といえば、あなたのそっけない顔つきだけです。それも無理はない。僕には財産もな…

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