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ワーニャ伯父さん
ワーニャおじさん |
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作品ID | 51862 |
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副題 | ――田園生活の情景 四幕―― ――でんえんせいかつのじょうけい よんまく―― |
原題 | ДЯДЯ ВАНЯ |
著者 | チェーホフ アントン Ⓦ |
翻訳者 | 神西 清 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「かもめ・ワーニャ伯父さん」 新潮文庫、新潮社 1967(昭和42)年9月25日 |
入力者 | 米田 |
校正者 | 阿部哲也 |
公開 / 更新 | 2010-12-11 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 108 ページ(500字/頁で計算) |
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人物
セレブリャコーフ(アレクサンドル・ヴラジーミロヴィチ) 退職の大学教授
エレーナ(アンドレーヴナ) その妻、二十七歳
ソーニャ(ソフィヤ・アレクサンドロヴナ) 先妻の娘
ヴォイニーツカヤ夫人(マリヤ・ワシーリエヴナ) 三等官の未亡人、先妻の母
ワーニャ伯父さん(イワン・ペトローヴィチ・ヴォイニーツキイ) その息子
アーストロフ(ミハイル・リヴォーヴィチ) 医師
テレーギン(イリヤ・イリイーチ) 落ちぶれた地主
マリーナ 年寄りの乳母
下男
セレブリャコーフの田舎屋敷での出来事
[#改ページ]
第一幕
庭。ベランダのついた家の一部が見える。並木道のポプラの老樹の下に、テーブルがあって、お茶の支度ができている。ベンチ、椅子、それぞれ数脚。ベンチの一つに、ギターが載っている。テーブルのじきそばに、ブランコがさがっている。午後二時すぎ。
曇り日。
マリーナ(ぶよぶよした、動きの少ない老婆)が、サモワールの前に坐って靴下を編んでいる。アーストロフが、そばを歩き回っている。
マリーナ (コップに茶をつぐ)お一ついかが、旦那。
アーストロフ (気乗りのしない様子で、コップを受ける)あんまり欲しくもないがね。
マリーナ ウオトカならあがるんでしょう。
アーストロフ いいや、ウオトカも毎日はやらない。それに、今日は蒸し蒸しするしな。(間)ねえ、ばあやさん。あんたと知り合いになってから、どれくらいになるかなあ。
マリーナ (考えながら)どれくらい? そうですね。……あんたが、この土地においでたのは……あれは、いつだったか……まだソーニャちゃんのお母御の、ヴェーラ様がご存命の頃でしたわねえ。あの方がおいでの時分、あんたは、ふた冬ここへ、かよって見えましたよ。……すると、かれこれもう、十一年になるわけですねえ、(思案して)それとも、もっとになるかしら。
アーストロフ その時分から見ると、わたしも随分かわったろうねえ。
マリーナ ええ、随分。あのころは、お若かったし、おきれいでもあんなすったけれど、今じゃもう、だいぶおふけになりましたよ。男前も、昔のようじゃないしねえ。なにしろ――ウオトカをあがるからねえ。
アーストロフ そう。……この十年のまに、すっかり人間が変ってしまったよ。それもそのはずさ。働きすぎたからなあ、ばあやさん。朝から晩まで、のべつ立ちどおしで、休むまもありゃしない。晩は晩で、毛布のしたにちぢこまって、今にも患者から呼び出しが来やしまいかと、びくびくしている始末だ。この十年のあいだ、わたしは一日だって、のんびりした日はなかった。これじゃ、ふけずにいろというほうが、よっぽど無理だよ。おまけにさ、毎日々々の暮しが、退屈で、ばかばかしくて、鼻もちがならないときている。……ずるずると、泥沼へ引きずりこまれるみたいなものさ。ぐるりにいる連中ときたら、どいつもこい…