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赤い実
あかいみ
作品ID52035
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-29 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 だんだん寒くなるので、義雄さんのお母さんは精を出して、お仕事をなさっていました。
「きょうのうちに、綿をいれてしまいたいものだ。」と、ひとりごとをしながら、針を持つ手を動かしていられました。
 秋も深くなって、日脚は短くなりました。かれこれするうちに、はや、晩方となりますので、あちらで、豆腐屋のらっぱの音がきこえると、お母さんの心は、ますますせいたのでありました。
 ちくちくと、縫っていられますうちに、糸が短くなって糸の先が、針孔からぬけてしまったのです。お母さんは、新しい糸の先を指で細くして針の孔にとおそうとなさいました。けれど、うまいぐあいに、糸は孔にとおらなかったのです。
 お母さんは、気をおもみになりました。そして、明るい方を向いて、針の小さな孔をすかすようにして、糸の先をいれようとしましたが、やはりうまくいきませんでした。
「義雄さん。」と、お母さんはたまりかねて、隣のへやで、勉強をしていた義雄さんをお呼びになりました。
「なんですか、お母さん。」と、義雄さんは、すぐにやってきました。
「お母さんは、目がわるくなって、とおらないから、ちょっと糸を針孔にとおしておくれ。」と、おっしゃいました。
 これをきくと、義雄さんは急に胸がふさがって、悲しくなりました。
「お母さんは、まだおばあさんじゃないんでしょう。」と、義雄さんはききました。
「いいえ、もうおばあさんなんですよ。」
 こうおっしゃったお母さんの言葉に、やさしい義雄さんは、目の中に、熱い涙がわいてきました。糸をとおしてあげて、ふと、庭さきを見ると赤いものが、目にとまったのです。
「あの、赤いのはなんだろうな。お母さん、あの赤いのはなんでしょうね。」
「どれですか。」
「ざくろの木の、あの枝さきについている……。」
 すでに、黄色くなった葉が落ちてしまって、ざくろの木は枝ばかりになっていました。その一本の枝のさきに、小さい真っ赤なものが、ついていたのです。そして、それはなんであるか、お母さんにもわかりませんでした。
 義雄さんは、庭に下りて、すぐにざくろの木に登りはじめました。
「おちるといけませんよ。」と、お母さんは、注意をなさいました。
「だいじょうぶです。」と、義雄さんは、もう木の中ほどまで登ってその枝に、足をかけていました。
 近づいてみると、ちょうどルビーのように、美しくすきとおる、なにかの小さい実が、ざくろのとげにつきさされていたのでした。
「どうして、こんなところに赤い実がつきさされているのだろう。」
 義雄さんは、赤い実をとげからぬき取って、木から下りると、お母さんのところへ持ってまいりました。
 すると、お母さんは、
「うぐいすか、なにかそんなような鳥が、どこからか、くわえてきてさしていったのです。」とおっしゃいました。
「どうして、あんなところにさしておいたんでしょうね。」…

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