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田舎のお母さん
いなかのおかあさん
作品ID52039
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
初出「台湾日日新報」1936(昭和11)年3月24日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2015-07-12 / 2016-06-22
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 奉公をしているおみつのところへ、田舎の母親から小包がまいりました。あけてみると、着物がはいっていました。そして、母親からの手紙には、
「さぞ、おまえも大きくなったであろう。そのつもりでぬったが、からだによくあうかどうかわかりません。とどいたら、着てみてください。もしあわないようでしたら、夜分でもひまのときに、なおして着てください。」と、書いてありました。
 おみつは自分のへやにはいって、お母さんからおくってきた着物をきてみました。田舎にいるときには、お正月になってもこんな着物をきたことがなかったと思いました。自分だけでなく、村でもこんな美しい着物をきる娘は、なかったのであります。
 彼女は、しばらく自分のすがたに見とれていました。ちょうどそこへ、坊ちゃんが外からたこをとりにはいってきて、おみつのようすを見たので、
「みつ、それを着ると、なんだか田舎の子みたいになるよ。」といって、笑いました。
 おみつも、田舎では美しいのであろうけれど、都ではみんながもっと美しい着物を着ているから、あるいはそう見えるかもしれないと思うと、急にはずかしくなって、
「なぜ、お母さんはもっとはでなのをおくってくだきらなかったのだろう? わざわざおくってくださらずとも、自分がすきなのをこちらでこしらえればよかったのに……。」と、心でいいながら、着物をぬいで、行李の中へしまってしまいました。
 晩になって、おしごとがおわりました。彼女は自分のへやへはいってひとりになると、しみじみとして田舎のことが考えられました。行李から着物をとりだしました。村からあの峠をこして母親が町へ出て、機屋でこの反物を買い、家にかえってからせっせとぬって、おくってくださったのです。そう考えると、また、いくたびかこのぬいかけた着物を手にとりあげて、
「娘にあうかしら?」と、首をかしげて見入られたであろう母親のすがたさえ、目にうかんでくるのでした。
 おみつは、お母さんの手紙を着物の上でひらいて、もういちどよみかえしているうちに、あついなみだが、おのずと目の中からわいてくるのをおぼえました。
「せっかく、おくってくださったのを、気に入らないなどいって、ばちがあたるわ。」
 そう思うと、彼女は心からありがたく感じて、すぐにお礼の手紙を書いて、お母さんに出したのでした。
 ある日、おみつはお嬢さんのおともをして、アパートへいったのであります。
「そんなじみな着物しかないの?」と、出がけにお嬢さんがおっしゃいました。
 おみつは、顔を赤くしましたが、心の中で、お母さんのおくってくださったのを、たとえじみでもなんのはずかしいことがあろうかと、自分をはげましていました。
 ひろびろとしたデパートは、いろいろの品物でかざりたてられていました。そして、そこはいつも春でありました。香水のにおいがただよい、南洋できのらんの花がさき…

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