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お面とりんご
おめんとりんご
作品ID52048
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2015-07-18 / 2015-05-24
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 町の方から、いつもいい音が聞こえてきます。
 チンチン、ゴーゴーという電車の音のようなのや、プープーというらっぱの音のようなのや、ピーイ、ポポーという笛の音のようなのや、聞いても聞いてもその音がいろいろであって、どんなにぎやかなおもしろいことがあるのか、考えてもわからないような気がしました。
 小さな政ちゃんは、白いエプロンをかけて、往来の上に立ってその音を聞いていましたが、ついその音のする方へさそわれて、とぼとぼと歩いていきました。
 そこは、ちょうど町のまがり角になっていました。車がとおります。人が歩いていきます。それは、ほんとうににぎやかなのでした。
「おまえひとりで町へいってはいけませんよ、道をまようとたいへんですから。」と、よくお母さんのおっしゃったことばを政ちゃんは思いだしたのでした。
「なんで、道などまようものか。」と、政ちゃんは心の中で強くいいました。
 ちょうどこのとき、あちらに子供たちがたくさんあつまって、なにかを見ていました。きっとおもしろいものが、あったにちがいありません。
「なんだろうな?」
 小さな政ちゃんは、そこまでいってみることにしました。
 一人のおじいさんが、紙でつくったお面を売っていました。それをかぶると、しわだらけのおじいさんの顔が、おかしいひょっとこの顔にかわりました。あんまりおもしろいので、政ちゃんはわらいました。政ちゃんばかりではありません。見ていた子供たちはみんなわらったのです。それだけでなく、おじいさんのひょっとこがぷっと息を吹くと、口から赤い長い舌がぺろりと出て、その舌が自由にのびたりちぢんだりしたのでした。もうみんなは、声を出してわらってしまいました。
「さあ、このお面がたった三銭ですよ。」と、おじいさんは顔からお面を取ると、いいました。
 見ていた子供たちは、それがほしかったのでした。けれど、お銭を持っていないものは買うことができません。幸い、政ちゃんはお母さんからもらった三銭がエプロンのかくしの中にありましたから、それを出して買うことができました。政ちゃんはよろこんで、お家へかえっていきました。
 政ちゃんはお面を持って、おとなりの清ちゃんのところへ遊びにいきました。そして、ひょっとこのお面をかぶってぷっと赤い舌を出してみせると、清ちゃんもおばさんもびっくりしましたが、きゅうにおもしろがってわらいだしました。
「ねえ、お母さん、僕にもひょっとこのお面を買っておくれよ。」と、清ちゃんが泣きだしました。
「なんでも人の持っているものを、ほしがるものではありません。」と、お母さんはおっしゃいました。
 けれど、政ちゃんよりもっと小さな清ちゃんには、ききわけがなかったのです。
「僕も、あんなお面がほしいんだよ。」と、いいました。
「政ちゃん、いためませんから、すこし清ちゃんにかしてやってくださいね。」と、お…

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