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からすとうさぎ
からすとうさぎ
作品ID52050
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 11」 講談社
1977(昭和52)年9月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2016-11-07 / 2016-10-28
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 お正月でも、山の中は、毎日寒い風が吹いて、木の枝を鳴らし、雪がちらちらと降って、それはそれはさびしかったのです。
「ほんとうに、お正月がきてもつまらないなあ。」と、からすは、ため息をつきました。
「町の方はにぎやかなのだろう。ひとつ出かけてみようかなあ。」と、しばらく木の枝に止まって、考えていましたが、そのうちに、そう心にきめて、遠い町の方をさして飛んでゆきました。
 どこを見ても、雪の野原で真っ白でした。だんだん町が近づくにつれて、道の上に人通りが多くなりました。雪道の上を歩いていくものもあれば、そりに乗っていくものもあります。
 また、お正月のご馳走を造るために、魚を運ぶそりもあれば、みんなの喜ぶみかんや、あるいは炭や、薪のようなものや、塩ざけなどを積んでいくそりも見受けられたのでありました。
 欲深なからすは、なにを見てもほしいものばかりなので、もしや、このあたりになにか落ちていはしないかと、あたりを見まわしながら、あっちの木、こっちの木とうろうろ飛びまわっていました。
 すると、町からすこし離れたところに森があって、そこに一軒のりっぱな家があり、煙突から煙が上っていました。からすは、その森にきて止まると、家の中からは、おいしそうな香いが流れていましたので、からすは、とうとういちばん低い小舎の屋根まで降りてきました。
 それは、この家の犬小屋でありました。中には、一ぴきの犬が、わらの上にはらばいになっていましたが、その白と黒のぶち犬を、どこかで見覚えがありましたので、からすは、じろじろと犬の方をながめていました。犬は、みょうなからすと思ったのでしょう。ふいに、「ワン。」といって、からすをおびやかしました。からすは、この瞬間に、犬のことを思い出したのです。
「やあ、犬さん、あなたのお家はここですか?」と、声をかけました。犬は、不思議そうにからすを見ていましたが、
「からすくん、いつ君にお目にかかったことがあったかね。思い出せないが?」と、犬は、たずねたのです。からすは、ずるそうな目つきをして、犬を見ていましたが、
「あなたは、先だって、山でうさぎを追いかけて、とうとう逃がしてしまいなされたのを、私は、木に止まって見ていました。あなたは、たいそう残念そうでありましたね。」と、からすは、いいました。
「ああ、あのとき、君は、どこかで見ていたのですか。僕は、主人に対して、ほんとうに面目なかったのだ。」と、犬は、急に、恥ずかしそうにして答えました。
「なに、あのうさぎなら、また捕らえることができないともかぎりませんよ、私が、うまくいって、この野原へつれ出してくることもできるのです。」と、からすはいいました。
 犬は、このあいだ、主人のお伴をして、猟に出かけて、主人が打ち損なったうさぎを追いつめて、もうすこしで捕らえるところを逃がしてしまったので、残念に思ってい…

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