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からすとかがし
からすとかがし
作品ID52051
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-29 / 2014-09-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 太吉じいさんは、百姓が、かさをかぶって、手に弓を持って立っている、かがしをつくる名人でした。それを見ると、からすやすずめなどが、そばへ寄りつきませんでした。
 それも、そのはずで、おじいさんは若い時分から弓を射ることが上手で、どんな小さな鳥でも、ねらえば、かならず射落としたものです。よく、晩方の空を飛んでいくかりを射落としたり、はたけで遊んでいるすずめを射とめたりしました。だからおじいさんを見ると、小鳥たちは鳴くのをやめて、どこへか姿をかくしてしまいました。
 しかし、このごろは、おじいさんも目がわるくなって、ねらいがきかなくなりました。けれども、鳥たちは、弓を持って立っいるかがしを見ると、やはりおじいさんのような、怖ろしい人だと思ったのです。
 親鳥は、子鳥にいいました。
「あの、田の中に立っている人の手に持つのが、おじいさんや、おばあさんから、話にきいた、怖ろしい弓というものだよ。いつ飛んできて、あたるかしれないから、そばにゆかないがいい。」
 子鳥たちは、たびたび、いいきかされたのでよく守っていました。
 また、来年、稲の実るころになると、太吉じいさんは、新しいかがしを造りました。去年の子鳥たちはもう親鳥となって、同じように、その子供たちに向かって、
「あれは、弓というものだよ。」と自分たちのきいた、怖ろしい話をしてきかせました。こうして、鳥たちは、なるたけおじいさんのたんぼに近寄らないようにしていました。
 ところが、物忘れをするからすがありました。きいた話を、すっかり忘れて、かがしの上にきて止まりました。そして、カア、カアと鳴きながらかがしの頭をつつきました。
 これを見たすずめたちは、びっくりしてどうなるのかと目をまるくしていましたが、しまいに、
「なんだ、からすがとまってもなんでもないじゃないか。」といって、どっと押しよせてきました。そして、長い間自分たちをだましていた正体を見破ってしまいました。
「こんな、まがった竹がなんになるんだ。」といって、すずめたちは弓にとまりました。
 旅をして帰った、じいさんの息子が、
「いまごろ、弓なんか持ったかがしなんてあるものでない。どこの田や、圃でも、鉄砲を持った、勇ましいかがしを立てている。」といいました。
 これをきいて、太吉じいさんは、
「なるほどそうかな、弓なんて、なにするものか、昔の鳥は知っても、このごろの鳥たちは知るまいて。」と、いって、おじいさんは弓のかわりに、鉄砲を持って立っている、かがしをつくりました。
「見てくれ、これなら、いいだろう。」と、おじいさんは、ききました。
「ああ、よくできました。」と、息子は、答えました。これを見たすずめたちは、ふるえあがりました。
「あれは鉄砲だよ。近寄ると、ズドンといって、みんな殺されてしまうのだよ。」と、親すずめは子すずめにいいきかせました。
 とこ…

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