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きれいなきれいな町
きれいなきれいなまち |
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作品ID | 52056 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 10」 講談社 1977(昭和52)年8月10日 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 酒井裕二 |
公開 / 更新 | 2015-07-24 / 2015-05-24 |
長さの目安 | 約 6 ページ(500字/頁で計算) |
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あるところに、かわいそうな子どもがありました。かね子さんといって、うまれたときからよく目が見えなかったので、お母さんは、たいそうふびんに思っていらっしゃいました。
あちらにいい目のおいしゃさまがあるといえば、そこへつれていき、またどこそこにいい目のおいしゃさまがあると聞けば、そこへつれていきました。
けれど、どのおいしゃさまも、はっきりなおるとうけあった人はなかったのです。
「お母さん、わたしは目が見えなくても次郎さんがあそびにきてくださるから、ちっともかなしくはありません。」と、かね子さんはいいました。
「ほんとうに次郎さんは、やさしいいいお子さんですね。あんなにしんせつなお子さんはありませんよ。」と、お母さんもおよろこびになりました。
毎日、次郎さんはあそびにきてくれました。
「かね子さん、ぼく、おもしろいご本をもってきたのだよ。いま読んであげるからきいていてごらん。」
そういって次郎さんは、浦島太郎のお話を読んできかせました。
「かね子さん、おもしろい?」
「おもしろいわ、太郎は助けたかめをにがしてやったのでしょう。」
「そうすると、かめがおれいにやってきたのだよ。どうかわたしの背中にのってください、龍宮におつれ申しますといったのさ。」といって、次郎さんはご本のきれいな絵をながめていました。
「やあ、きれいだな。青や赤やでぬったご門があって、龍宮ってこんなきれいなところかなあ。」と、次郎さんは感心していました。
けれど、かね子さんには、その絵がわかりませんでした。
「次郎さん、どんなきれいな絵がかいてあるの?」と、なみだぐんでききました。
次郎さんは、かね子さんが目の見えないのに気がつくと、
「ああ、悪かった。うらやましがらせるようなことをいわなければよかった。」と、後悔をしました。
そして、どうしたらかね子さんの目がよくなるだろうと思いました。
「ねえ、かね子さん、泣くのはおよし。ぼく悪かった、かんにんしておくれ。」
「いいえ、次郎さんが悪いのではない。わたしの目はなおらないって、お母さんがおっしゃったので、かなしいのよ。」
「ぼく、どうかして見えるようにしてあげるからね。」と、次郎さんがいいました。
浦島太郎は、かめを助けたために龍宮へいって、おとひめさまにであったのだから、ぼくもこれから殺生をしないことにしようと、次郎さんは思いました。
「あっちからきたのは勇ちゃんらしいな。」
次郎さんは、往来に立ちどまって見ていました。やはり勇ちゃんでした。もちぼうを持ち、片手にとんぼのかごをぶらさげていました。
「勇ちゃん、とんぼが取れた?」と、次郎さんはききました。
「むぎわらとんぼが二匹と、やんまを取ったよ。」と、勇ちゃんは、とくいになって答えました。
「やんまを取ったの?」
次郎さんは、うらやましそうにかごの中をのぞくと、大きな…