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少年と秋の日
しょうねんとあきのひ
作品ID52067
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
初出「児童文学」1935(昭和10)年11月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-09-13 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 もう、ひやひやと、身にしむ秋の風が吹いていました。原っぱの草は、ところどころ色づいて、昼間から虫の鳴き声がきかれたのです。
 正吉くんは、さっきから、なくしたボールをさがしているのでした。
「不思議だな、ここらへころがってきたんだけど。」
 どうしたのか、そのボールは見つかりませんでした。お隣の勇ちゃんは、用事ができて帰ってしまったけれど、彼だけは、まだ、思いきれなかったのでした。ボールがほしいというよりは、どこへいったものか、消えてなくならないかぎり、このあたりに落ちているものと思ったからです。
 この広い原っぱには、ほかにだれも遊んではいませんでした。彼は、勇ちゃんが、スパイクを買ってもらったら、自分もお母さんに買ってもらうお約束があるので、さっきも勇ちゃんと、その話をしていたのでした。
「ね、君は、いつスパイクを買ってもらうの?」
「お父さんが、旅行からお帰りになったら。」と、勇ちゃんはいいました。
「君が、買ってもらったら、ぼくにも買ってやると、お母さんがいったよ。」
 二人は、早くその日のくるのが楽しみだったのです。
 正吉くんは、いまも、そのことを考えていると、ふいに、
「君、なにかさがしているの?」と、後方で、声がしました。おどろいて振り向くと、知らない子が立っていました。
「りゅうのひげなら、あすこにたくさんあるよ。ぼくもりゅうのひげの実を取りにきたのだ。」と、知らない子が、いいました。
「りゅうのひげ?」
「ああ、りゅうのひげさ、君、まだ知らないの?」
「僕、りゅうのひげの実を見たことがないよ。」と、正吉くんはいいました。
 知らない子は、先になって駆け出しました。
「君、ここに、こんなになっているだろう。」と、足もとのしげった草の中をさしました。そこにも、冷たい秋の風はあって、細くて長いひげのような草の葉を動かしていました。
 なるほど、手で草をわけてみると、濃紫の小さい美しい実が、重なり合うようにしてなっていました。
「僕の妹が、ほしいというので、僕、さがしにきたのだ。」と、知らない子は、いいました。
「君は、りゅうのひげの実を取りにきたのかい。僕は、ボールをなくしたので、さがしているのだ。」と、正吉くんは、いいました。
「そうか、あったかい。ないの? 僕、さがすのは、とてもうまいんだぜ。」
 知らない子は、りゅうのひげをポケットに入れて、それから、ボールをさがしてくれました。
「なんだ、ここにあるじゃないか。」と、さっき正吉くんが、いくら、さがしても見つからなかったところから、拾い出しました。
「君、キャッチボールをしようか。」と、正吉くんが、いうと、
「うん、こんどしよう。妹が、待っているから、早く帰らなければならないよ。」
「君の家は、遠いの。」
「遠いけど、自転車に乗ってゆけば、すぐだ。君、いっしょに遊びにおいでよ。」と、知ら…

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