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すいれんは咲いたが
すいれんはさいたが
作品ID52071
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-29 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 金魚鉢にいれてあるすいれんが、かわいらしい黄色な花を開きました。どこから飛んできたか小さなはちがみつを吸っています。勇ちゃんは日当たりに出て、花と水の上に映った雲影をじっとながめながら、
「木田くんは、どうしたろうな。」と、思いました。
 二人は、同じ組でいっしょにデッドボールをやれば、まりほうりをして遊んだものです。木田は、小さくなったズボンをはいていたもので、うずくまるとおしりが割れて、さるのおしりのように見えたのも目にうつってきました。
 ある日のこと雑誌を貸してやると、
「ふなをあげるから遊びにこない?」と、木田はいいました。
 勇ちゃんは、ふながほしかったから、急にゆきたくなりました。
「どうしたの、君が釣ってきたのかい。」とたずねました。木田は、棒切れで砂の上に字をかきながら、
「ああ、お父さんと川へいって釣ってきたんだ。こんど、君もいっしょにゆかない?」と、いきいきとした顔を上げたのであります。
「いつか、つれていっておくれよ。君のお父さん、釣るのはうまい?」
「なにうまいもんか、いつも僕のほうがたくさん釣るのさ。ふなをあげるから、遊びにこない。」と、木田はすすめたのでした。
「いこうか、じゃ、うちへ帰ったら、かばんを置いてすぐにね。」
 遊びにゆく約束をしたので勇ちゃんは、その日、木田から教わった道を歩いてたずねてゆきました。すると坂の下のところに、小さなみすぼらしい床屋がありました。
「この床屋かしらん。」と、勇ちゃんは思ったが、まさかこんな汚らしい家ではあるまいというような気もして、その前までいってみると、木田の姿が、すぐ目にはいったのです。
「勇ちゃん、裏の方へおまわりよ。」
 木田は、喜んでたずねてきてくれた友だちを迎えました。みかん箱を持ってきて、中からいろいろのものを出して拡げました。珍しい貝がらもあれば、金光りのする石もあり、また釣りの道具もまじっていれば、形の変わったべいごまもはいっていました。
「こんど釣りにゆくとき、さおがなかったなら、僕のお父さんに造ってもらうといいぜ。」と、木田はいいました。木田は、なんでもお父さんにというのです。それで、勇ちゃんが、
「君のお母さんは?」と、きくと、木田は、急にさびしそうな顔つきをして、
「僕のお母さんは、なくなったのだ。お父さんと二人きりなんだよ。だけど、さびしいこともないや。」と、口だけでは、元気にいいました。木田くんのお父さんは、木田によく似ていました。脊が低くて、丸顔でした。白い仕事服を着て、お客の頭を刈っていましたが、それが終わったとみえて、二人の遊んでいるへやへ塩せんべいの盆と、お茶のはいった土びんと持ってきて、
「よくいらっしゃいました。」と、置いてゆかれたのでした。
 勇ちゃんは、帰りに、ふなを三匹もらって、ブリキかんの中へいれて下げながら、お母さんのない木田くんのこ…

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