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小さな年ちゃん
ちいさなとしちゃん
作品ID52077
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 11」 講談社
1977(昭和52)年9月10日
初出「愛育」1937(昭和12)年3月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2016-09-13 / 2016-06-10
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある日、小さな年ちゃんは、お母さんのいいつけで、お使いにいきました。
「ころばないようにして、いらっしゃい。」と、お母さんは、おっしゃいました。
 年ちゃんは、片手に財布を握り、片手にふろしきを持って、兄さんのげたをはいて、引きずるようにしてゆきました。
 お豆腐屋の前に、大きな赤犬がいました。年ちゃんは、その前を通るのが、なんだかこわかったのです。けれど、赤犬は、あちらを向いていました。年ちゃんは、その間に前を過ぎて、お菓子屋へ着きました。
「まあ、坊ちゃん、お一人で、えらいですこと。」と、お菓子屋のおばさんは、ほめて、お菓子をふろしきに包んでくれました。
 年ちゃんは、帰りに、またお豆腐屋の前を通らねばなりません。赤犬が、あちらを向いていてくれればいいがと思いました。けれど、今度は、赤犬は、じっと年ちゃんの顔を見ていました。年ちゃんは、胸がどきどきしました。急いで、その前を通ろうとして、駈け出すと、石につまずいて、ころんでしまいました。年ちゃんはこわくなって、我慢ができずに泣き出してしまいました。
 すると、大きな赤犬がやってきて、年ちゃんの顔をべろりとなめました。二度びっくりしたので、年ちゃんは、泣きやんで、目を開けて、赤犬を見ると、やさしそうな目つきをして、尾を振っていました。
 年ちゃんは、まったく、赤犬が好きになりました。それから、お友だちが、赤犬を怖ろしがると、年ちゃんは、
「赤犬は、やさしい、いい犬なんだよ。」といって、いつも赤犬の弁護をしました。そして、お使いにいって、お豆腐屋の前に、赤犬の姿が見えなかったとき、年ちゃんは、どんなにさびしく思ったかしれません。

 ある日、兵隊服を着た、二人連れのおじさんが、お薬を売りにきました。一人のおじさんは、松葉づえをついて、往来の上で、なにか大きな声を出して、わめいていました。きっと、戦争にいって傷ついてきたのだといっていたのでしょう。
 一人のおじさんは、一軒ごとにお家へ入っていきました。みんな、気の毒に思って、薬を買ってあげるだろうと、年ちゃんは思って、その後についていって見ていました。
 すると、女中さんが出て、
「いま、お留守ですから。」と、いって、断っていました。
 年ちゃんは、先刻、この家のおばさんがいらしったのに、なんでうそをつくのだろうと思っていました。
 おじさんは、その家を出て、お隣へいきました。お隣も、
「いま、お薬がありますから。」と、いって、断っていました。おじさんは、なにか、ぶつぶついいながら、その家を出ました。
 今度は、しず子さんのお家です。いつのまに、だれかご門の戸にかぎをかけたのか、おじさんが開けようとしても、戸は開きませんでした。
 これを見ていた年ちゃんは、この薬箱を下げたおじさんが、かわいそうになりました。このとき、年ちゃんは自分の家のお母さんは、このおじ…

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