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紙風船(一幕)
かみふうせん(ひとまく)
作品ID52082
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集1」 岩波書店
1989(平成元)年11月8日
初出「文芸春秋 第三年第五号」1925(大正14)年5月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-01-30 / 2016-04-13
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


人物



時  晴れた日曜の午後

所  庭に面した座敷


[#改ページ]

夫  (縁側の籐椅子に倚り、新聞を読んでゐる)
「米国フラー建材会社のターナー支配人が一日目白文化村を訪れて、おゝロスアンゼルスの縮図よ! と申しましたやうに、目白文化村は今日瀟洒たる美しい住宅地になりました」
妻  (縁側近く座蒲団を敷き、編物をしてゐる)なに、それは。
夫  (読み続ける)「四万坪の地区には、整然たる道路、衛生的な下水水道電熱供給装置テニスコート等の設備があり多くの小綺麗なバンガローや荘重なライト式建築、さては、優雅な別荘風の日本建築などが、富士の眺めや樹木に富む高台一帯の晴れやかな環境に包まれて……」(新聞を投げ出し)おい、散歩でもして見るか。
妻  いゝから、川上さんとこへ行つてらつしやいよ。
夫  是非行かなくつてもいゝんだよ。
妻  あたしは、思ひ立つた時すぐでなけれやいやなの。
夫  散歩か。
妻  散歩でもなんでも……。

(間)

夫  散歩でもなんでもつたつて、ほかに何かすることがあるかい。
妻  ないから、それでいゝぢやないの。
夫  あ。
妻  川上さんとこへいらしつたらどう、そんなこと云つてないで。
夫  もう行きたくないよ。
妻  行つてらつしやいよ、ね。
夫  行かないよ、お前のそばにゐたいんだよ。わからない奴だなあ。
妻  わかつてますよ、憚りさま。

(間)

夫  あゝあ、これがたまの日曜か。
妻  ほんとよ。
夫  (また新聞を拾ひ上げ、読むともなしに)
かういふ場合の処置なんていふことを、新聞で懸賞募集でもして見たら、面白いだらうな。
妻  あたし出すの。
夫  (新聞に見入りながら、興味がなさゝうに)何んて出す。
妻  問題はなんて云ふの。
夫  問題か……問題はね、結婚後一年の日曜日を如何に過すか……。
妻  それぢや、わからないわ。
夫  わからないことはないさ。ぢや、お前云つて見ろ。
妻  日曜日に妻が退屈しない方法。
夫  そして、夫も迷惑しない方法……。
妻  いゝわ。
夫  名案があるのか。
妻  あるの。先づ女は、朝起きたら、早速お湯に行つて、ちやんとお化粧をすまして、着物を着替へて、一寸お友達の処へ行つて来ますつて云ふの。
夫  すると……。
妻  すると、男は、きつといやな顔をするにきまつてるでせう。
夫  きまつてやしないさ。
妻  あなたのことよ。
夫  おれが何時いやな顔をした。
妻  しないの。
夫  まあいゝ、それからどうする。
妻  いやな顔をするでせう。さうしたら、かう云ふの――実は、あんまり行きたくもないんだけれど、うちでぶらぶらしてたつていふことが後でわかると具合が悪いから……それが、会ふたんびに、一度遊びに来い、日曜なら主人もゐるし、一緒に芝居にでもつ…

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