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古い玩具(一幕六場)
ふるいがんぐ(ひとまくろくば)
作品ID52085
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集1」 岩波書店
1989(平成元)年11月8日
初出「演劇新潮 第一年第三号」1924(大正13)年3月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-01-25 / 2016-04-13
長さの目安約 67 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

時  千九百××年の夏より秋にかけて

処  仏蘭西

人物
白川留雄
ルイーズ・モオプレ
手塚房子
手塚正知
ポオレット
マルセル
ルイーズの下女
手塚の下女
ホテルの女中
無言役――老婦人、若い男二人、労働者風の男女。
[#改ページ]


プロロオグ

フォンテエヌブロオの古城――池のほとり――日盛り過ぎ。
白川留雄、池の欄干に倚り、鯉にパンをやつてゐる。長い間。
ポオレットとマルセル、腕を組みながら、留雄の後ろを通り過ぎる。

マルセル  それから、どうしたのさ。
ポオレット  (留雄のゐるのに気づき)お待ちよ、いつかのあれがゐるから……(留雄の肩に手かけ、馴れ馴れしく)何してるの。
留雄  (振り向いて、さほど驚いた様子もなく、心もち眉をよせて、ポオレットの顔を見る)
ポオレット  あたしよ、忘れたの。
留雄  (素気なく背を向けて)何か用か。
ポオレット  (ちらとマルセルに笑ひかけ)久しぶりね。
留雄  久しぶりだ。
ポオレット  それでおしまひなの。
留雄  (遠くへパンを投げる)
マルセル  駄目よ、行かう。
ポオレット  あんた、その後、西村さんに会つた。
留雄  会つたらどうした。
ポオレット  怒つてた。
留雄  怒つてると思ふなら、あやまりに行け。金が返せなければ、ほかの方法で話をつけるさ。(正面を向く)
ポオレット  いやなこつた、あんな猿。
マルセル  (留雄の顔を見つめ、何か思ひ出したやうに吹き出す)
ポオレット  (マルセルに)何がをかしいんだよ。(留雄の顔を見て、これも何か思ひ出したやうに、吹き出さうとして)およしよ、くだらない。(マルセルの背をたたく)
マルセル  (大袈裟に)あいた。あたしをモデルに使つてくれない。
留雄  君は猿が好きと見えるね(強いて笑はうとする)
マルセル  あんたは、そんなでもないわ。
留雄  (背を向けて)ありがたう、さ、向ふへ行つた。(パンを投げる)
ポオレット  (マルセルをにらむ真似して)マルセルがね、あんたと何処かへ行きたいつて。
留雄  残念だが今日は先約がある。
マルセル  誰かを待つてるの。
留雄  (黙つてパンを投げる)
ポオレット  この娘、支那語で、「ありがたう」つて云へるのよ。
留雄  うるさいなあ。
ポオレット  うるさいなあ。うるさけれや、勝手におしよ。(マルセルの手を引き遠ざかりながら)野蛮人。
留雄  (ポオレットの方をにらむ)
マルセル  (留雄を見返り)あの顔。

両人 姿を消す。長い間。
老婦人、手眼鏡を持ち、書物を読みながら通りすぎる。
若い男二人、舞踏の足取りにて、口笛を吹きながら通り過ぎる。
労働者風の男女抱き合ひながら通る。しばらくして、手塚房子現はる。

房子  よく根気が続くわね。
留雄  来て御覧なさい。面白いから……。白鳥がね、麺麭を食ふのに、…

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