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東京の羽根
とうきようのはね
作品ID52092
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 11」 講談社
1977(昭和52)年9月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-01-11 / 2016-12-09
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 東京のお正月は、もう梅の花が咲いていて、お天気のいい日は、春がやってきたようにさえ見えるのであります。義雄さんは、隣のみね子さんと羽根をついていました。
 みね子さんは、去年学校を出たのでした。きょうはお店の公休日です。叔母さんのお家へいってきたといって、きれいな着物を着ていました。義雄さんは、まだ来年にならなければ、学校を卒業しないのであります。
「いいかい、こんど落としたら罰に、たたくのよ。」
「義雄さんこそよくって。さあ上げてよ。」と、みね子さんは、ポンと羽根をたたきました。打ち方がよくなかったので、羽根が横へそれてしまいました。
「あ、ごめんなさい。」と、みね子さんは、おわびをしましたが、義雄さんは、素早く走って、その羽根を力まかせに打ち返しました。けれど、羽根は、みね子さんの方へはいかずに、往来の方へ飛んでゆきました。ちょうど、そのとき一台のトラックが走ってきましたが、羽根は、そのトラックの上の荷物の蔭に落ちて、トラックは、知らずにそのまま羽根をのせてかなたへいってしまいました。
「いいよ、僕、新しい羽根を持ってくるから。」という義雄さんの声を、トラックの上に乗ってしまった羽根はうしろの方できいたのであります。
「いったいおれは、これからどうなるのだろうな。」と、羽根は、思ったのです。
 そのトラックは東京から砂糖の荷を積んで田舎の町へいくところでした。その田舎のお正月は、なんでも東京よりは一月おくれて、これからその町に住む人たちは、お正月の用意にとりかかるのでした。
 羽根は、車の上からさびしい霜枯れの野原を見ました。田圃の間を通る道は霜解けがして、ぬかるみになっていました。笠をかぶった人や毛布を着た人々が、トラックがくるとあわてて道を開いて、どろのとばしりをかけられまいとして、うらめしそうに見送るのでした。並木の頭に止まったからすがこの有り様を見下ろしていました。羽根は、なんだかからすが、自分を「どこへいくのだろう。」と、じっと見ているような気がしました。
「からすさん、私をもう一度都へつれていってくれませんか。」といって、頼もうとするまに、トラックは、走って、からすは後ろになってしまいました。
 あちらの山々には、真っ白の雪がきていました。昼過ぎに、トラックは、小さなさびしい町の問屋の前に止まりました。問屋の人たちが出てきて、荷物を下ろしました。運転手も車から下りて、荷物を下ろすてつだいをしました。このとき、白と赤のまじった羽根が、荷の間から出てきました。
「やあ、どこで、こんなのが乗ったかな。」と、眼鏡をかけた、運転手は笑って、ポンと往来に投げました。
 羽根は、ちょうど都の空で、義雄さんと、みね子さんに突かれて、ひらひらと空に翻って落ちたときのようなかっこうで地面へ落ちたのでした。
 往来では、勇坊と時子さんが、寒そうに懐手をして遊んで…

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