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二少年の話
にしょうねんのはなし
作品ID52098
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-29 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 達ちゃんの組に、田舎から転校してきた、秀ちゃんという少年がありました。住んでいるお家も同じ方向だったので、よく二人は、いっしょに学校へいったり、帰ったりしたのであります。
 ある日のこと、達ちゃんは、夕飯のときになにか思い出してくすくすと笑いました。
「なにか、おかしいことがあったの。」と、お姉さんがおっしゃいました。
「きょう、秀公といっしょに帰ったら、鳥屋の前で、いろいろの鳥が鳴いているのを見て、ああ、うそが、琴を弾じているといったんだよ。」と話しました。
「うそってなあに?」と、お姉さんがたずねられました。
「姉さんは、まだ、うそという鳥を知らないのかい。べにがらのように赤くて、もっと大きい鳥なんだよ。じゃ、姉さんは、文鳥を知っているだろう。ちょうど、あんなような鳥なのさ。」と、達ちゃんは、いいました。すると、こんど、お兄さんが、
「うそなら、寒い方にいる鳥だ。そして、それがどうしたというんだい。」と、きかれました。
「秀公が、小さいとき、おばあさんから、昔話をきいたんだって。昔あるお姫さまが、悪者のためにさらわれていって、沖の島で、一生独りさびしく琴を弾じて送ると、死んでから、その魂がうそになったというのだよ。それで、うそがさえずっていたので、秀公が、琴を弾じているといったんだそうだ。僕、なんのことかわからなかったのさ。」
 達ちゃんが、思い出して笑うと、姉さんもその意味がわかって、笑われたのでした。
「だが、おもしろいお話じゃないか。」と、兄さんは、いわれました。
「また、秀公の生まれた村から、日本海は近いんだって。海へいく道端に、春になると桜が咲いて、それはきれいだといっていたよ。」
「春は、田舎がいいだろうからな。」
「秀公は、やはり田舎がいいといっていた。」
「秀ちゃんて、どんな子?」
「できないので、先生にしかられてばかりいるのさ。」
 こういうと、お姉さんは、達ちゃんをにらみました。
「自分だって、できないくせに、ひとのことを悪くいうもんでないわ。」
 これをきいて、お父さんも、お母さんも、お兄さんも、みんながお笑いになりました。
 その、あくる日の、晩ご飯のときでありました。いつものように、みんなは、めいめいきまった場所にすわって、食事をしましたが、すんでしまうと、またいろいろお話が出たのであります。
「秀公は、どうしたい。」と、お兄さんが、思い出して、おききになりました。達ちゃんは、片手にはしを握って、目をかがやかしながら、
「秀公のやつ、また、きょう先生にしかられて、おかしかったよ。」
「よくしかられるのね。」
「田舎の学校のほうが、しかられなくて、よっぽどいいといっていた。」
「どうして、しかられたの。」と、お姉さんが、たずねました。
「運動場のもちのきを折って、もちを造るのだといって、石の上で、コツ、コツたたいているところを、…

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