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母犬
ははいぬ
作品ID52103
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2015-08-09 / 2015-05-24
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 どこから、追われてきたのか、あまり大きくない雌犬がありました。全身の毛が黒く、顔だけが白くて、きつねかさるに似て、形は、かわいげがないというよりは、なんだか気味悪い気がしたのであります。だから子供たちは、この犬を見ると、石を拾って投げつけたり、なにもしないのに、追いかけたりしました。犬はますますおどおどとして、人の顔を見れば逃げるようになりました。
 ペスやポチは、みんなからかわいがられているのに、なぜ、この犬だけ、みんなからきらわれるのだろうかと、敏ちゃんは、ふと、犬を見たときに考えたのでした。自分だって、このあわれな犬をいじめたことがあるのですが、考えると、わるいことをしたような気がしたのでした。
「こんどから、僕は、もう、あの犬をいじめないことにしよう。」と、敏ちゃんは、思いました。
 ところが、偶然にも、ある日、敏ちゃんのうちのお勝手もとへ、その顔だけ白い犬がやってきてのぞきました。よほど、おなかがすいていたとみえて、なにかたべるものをさがしていることがわかりました。
「まあ、なんて、気味のわるい犬でしょう。」と、女中がいって、水をかけようとしたのを敏ちゃんは、やめさせました。そして、
「まっておいで!」と、犬に向かっていいながら、奥へ入って、昨夜、食べ残してあったパンを持ってきました。
 パンは、もう堅くなっていましたが、このおなかのすいた犬にとっては、どんなにかおいしいごちそうであったでしょう。犬は、敏ちゃんの、しんせつにいってくれた言葉がわかったようにじっとして、待っていました。
「さあ。」と、いって、敏ちゃんはパンの一切れを犬に投げてやりました。
 犬は、喜んで食べると思いのほか、それを口にくわえると、あわただしく、逃げていってしまいました。
「それごらんなさい、坊ちゃん、まあ、なんて、にくらしい犬でしょう?」と、女中は、あきれました。
「ほんとうに、やな犬だね。」と、敏ちゃんもあんな犬に、なにもやらなければよかった、ああいう犬だから、みんなに、いじめられてもしかたがないのだという考えが起こったのであります。
「もう、きたって、なんにもやるものか。」と、敏ちゃんはいいました。
 ある日、敏ちゃんは、学校から帰りに、この犬が、やはりなにかくわえて、わきめもふらずに原っぱをかけて、あちらのすぎ林の中へゆくのを見ました。
「どこへゆくのだろうか。」と、敏ちゃんは、思いました。
 このとき、林の中から、ワン、ワンという、犬のなき声がきこえてきました。敏ちゃんは、きっと犬どうしのけんかが起こったのだろうと思いましたから、すぐいってみる気になってかけ出しました。そして、林に近づくと、そっと中のようすをうかがいました。
 すると、どうでしょう、そこには二匹の小犬がいて、いま母犬のもってきてくれた、魚の骨を争いながら、小さな尾をぴちぴちとふって喜んでたべて…

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