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左ぎっちょの正ちゃん
ひだりぎっちょのまさちゃん
作品ID52105
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-04-13 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 正ちゃんは、左ぎっちょで、はしを持つにも左手です。まりを投げるのにも、右手でなくて左手です。
「正ちゃんは、左ピッチャーだね。」と、みんなにいわれました。
 けれど、学校のお習字は、どうしても右手でなくてはいけませんので、お習字のときは妙な手つきをして、筆を持ちました。最初、鉛筆も左手でしたが、字の形が変になってしまうので、これも右手に持つ癖をつけたのです。
 お母さんは、困ってしまいました。
「はやく、右手で持つ癖をつけなければ。」と、ご飯のときに、とりわけやかましくいわれました。すると、お父さんが、
「左ききを無理に右ききに直すと、盲になるとか、頭が悪くなるとか、新聞に書いてあったよ。だから、しぜんのままにしておいたほうがいいのじゃないか。」と、おっしゃいました。
 こう、話が二つにわかれると、正ちゃんは、いったいどうしたらいいのでしょうか。それで、つまり、学校で字を書くときには、鉛筆や、筆を右手に持ち、またお弁当をたべたり、お家でみんなといっしょに、お膳に向かってご飯をたべるときは、はしを左手で持ってもやかましくいわぬということになったのです。そして、もとより、原っぱで、まりを投げるときは、左ピッチャーで、威張ってよかったのでした。
 なんにしても、正ちゃんは、指さきですることは、不器用でありました。鉛筆もひとりでうまく削れません。女中のきよに削ってもらいます。きよは、お勝手のほうちょうで削ってくれます。
「じょうずに、けずっておくれよ。」と、正ちゃんは、自分がけずれないくせに、こういいます。
「はい。」と、きよは、やりかけている仕事をやめて、ぬれた手で、丁寧に、けずってくれました。しかし、そんなときには「ありがとう。」というのを、正ちゃんはけっして忘れませんでした。
 もう一つ、手の不器用なことの、例をあげてみましょうか。それは、鼻をかむときでした。
「正ちゃん、ひとりで、鼻をかんでごらんなさい。」と、お母さんが、おっしゃいますと、正ちゃんは、紙を持ってきてかみますが、かえって鼻水をほおになすりつけるのでした。こんなとき、もしお姉さんが見ていらっしゃると、すぐに立ってきて、きれいにかみ直してくださいました。
 ある日のこと、正ちゃんは、大将となって、近所の小さなヨシ子さんや、三郎さんたちといっしょに原っぱへじゅず玉を取りにゆきました。そして、たくさんとってきて、材木の積み重ねてある、日のよく当たるところで遊んだのです。
「白いのもあるし、紫色のもあるね。」
「これは、緑色だろう。」
「そう、こんな黒いのもあったよ。」
 洋服のポケットや、前垂れのポケットの中にいれて、チャラ、チャラと鳴らしていましたが、いつのまにか、ヨシ子さんの姿が見えなくなりました。
「ヨシ子さん、帰ったの。」と、正ちゃんが、ききました。
「お家へ糸を取りにいったんだろう。」と、…

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