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古いはさみ
ふるいはさみ
作品ID52109
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-29 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 どこのお家にも、古くから使い慣れた道具はあるものです。そしてそのわりあいに、みんなからありがたがられていないものです。英ちゃんのおうちの古いはさみもやはりその一つでありましょう。
 英ちゃんの、いちばん上のお姉さんが小さいときに、そのはさみで折り紙を切ったり、また、お人形の着物を造るために、赤い布や紫の布などを切るときに使いなされたのですから、考えてみるとずいぶん古くからあったものです。
 その時分にはこんな黒い色でなく、ぴかぴか光っていました。そして刃もよくついていてうっかりすると、指さきを切ったのであります。
「よく気をつけて、おつかいなさい。おててを切りますよ。」と、お母さんが、よく、ご注意なさったのでした。
 お姉さんは、おちついた性質で、お勉強もよくできた方ですから、めったに、このはさみで指さきを切るようなことはしませんでした。使ってしまえば、箱の中に、ちゃんとしまっておきました。
 お姉さんが、まだ十か十一のころです。ある日のこと、
「あれ、なあに。」と、ふいにお母さんにききました。
「なんですか。」と、お母さんは、おわかりになりませんでした。
「アカギタニタニタニって?」
「あああれですか、はさみ、ほうちょう、かみそりとぎという、とぎ屋さんですよ。」と、お母さんはお笑いになりました。
「私の持っている、はさみといでもらっていい。」と、お姉さんがききました。
 このときの、アカギタニタニタニがいつまでもお家の笑い話の種となりました。
「ほら、アカギタニタニタニがきましたよ。」と、とぎ屋さんが、まわってくると、お母さんが笑っておっしゃいました。それからいくたびこのはさみは、とぎ屋さんの手にかかったでしょう。
 お姉さんは、女学校を卒業なさると、お針のけいこにいらっしゃいました。そのときには、このはさみは、もう、そんな役にたたなかったので、新しい、もっと大きなはさみをお求めになりました。そして、いままでのはさみは、平常、うちの人の使い用とされてしまいました。けれど、ちょうど、英ちゃんの上の兄さんが、いたずら盛りであって、このはさみで、ボール紙を切ったり、また竹などを切ったりしたのです。
 けれど、はさみは、不平をいいませんでした。あるときは、縁台の上に置き忘れられたり、また冷たい石の上や、窓さきに置かれたままでいたことがありました。そんなときは、さすがにさびしかったのです。
「はやく、お家へはいらないと、知らぬ人につれられていってしまうがな。」と、星の光をながめて心細く思ったことがありました。
「また、はさみが見えませんが、どこへいったでしょう。」と、あくる朝、お母さんが、つめを切ろうとして、はさみが見つからないので、こうおっしゃいました。
「きのうまで、箱の中にはいっていたんですよ。また、太郎さんが使って、どこかへ置き忘れたのでしょう。」
 姉さ…

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