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やんま
やんま
作品ID52117
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 11」 講談社
1977(昭和52)年9月10日
初出「教育・国語教育 5巻10号」1935(昭和10)年10月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2016-09-28 / 2016-06-10
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 正ちゃんは、やんまを捕りました。そして、やんまの羽についた、もちを取っていると、ぶるっとやんまは、羽を鳴らして、手から逃げてしまいました。
「あっ。」と、いって、その逃げた方を見送ると、よく飛べないとみえて、歩いてゆくおばあさんの背中にとまったのです。
 正ちゃんは、胸がどきどきしました。どうしたら、うまく捕らえることができるだろうと思ったからです。
 正ちゃんは、気づかれないように、おばあさんの後を追いかけました。いくらおばあさんでも、動いていると、知られぬように、うまく捕らえられるものでありません。正ちゃんは、ため息をつきました。しかし、勇気を出して、おばあさんのうしろへいって、手を伸ばしました。
 下を向いて、おばあさんは、なにか考えながら歩いていると、だれか、たもとにさわったような気がしたので、うしろを振り向くと、どこかのかわいらしい子が、後からついてきたのです。
「へへへへ、人違いでございますよ。」と、おばあさんは、笑って、そのままゆきかけたのでした。
「だめだなあ、あんなところに、うまくとまっているんだもの。」と、正ちゃんはうらめしそうに、やんまを見つめていましたが、もう一度捕らえられるものか、やってみようと、また足音をたてぬようにして、おばあさんの後を追ったのであります。
 おばあさんは、また、だれかたもとのあたりにさわったので、はっとして振り向いてみると、先刻の子供が、しつこく自分の後を追ってきたのでした。
 これは、人違いでないと思いました。そして、顔に似合わぬ、なんという、いやな子だろうと思いましたから、おばあさんは、怖ろしい目つきをして、にらんだのでした。子供は、おばあさんにしかられると、そのままあちらへ駈け出していってしまったのであります。
 おばあさんは、お家へ帰りました。家の人たちが、
「おばあさん、お帰んなさい。」と、いって、出迎えました。それから、「お疲れでしょう。」と、いって、羽織をぬがしてあげにかかると、やんまが、背中にとまっていましたので、
「まあ、おばあさん、こんな大きなやんまが、お背中にとまっていましたよ」と、いって、捕らえてみせました。このとき、おばあさんは、
「やんまが?」と、いって、はじめて、さっき、男の子が、自分の後を追ってきたわけがわかったのでした。
「ああ、それなら、あんな顔をして、にらむのでなかった。」と、おばあさんは、思いました。
 けれども、お彼岸のおまいりにいった帰りなので、やんまを助けてやったと思うと、いいことをしたとも考えたのでした。
「どれ、どれ、私が、木の枝にとまらせてやりましょう。」と、いって、おばあさんは、やんまを庭の縁側に近い、南天の木にとまらせておきました。
「もう、逃げていったろう。」と、晩方、おばあさんが、縁側へ出てみると、そこには、やんまの羽だけが散らばっていました。小ねこ…

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