えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

えぞおばけ列伝
えぞおばけれつでん
作品ID52211
著者作者不詳
翻訳者知里 真志保
文字遣い新字新仮名
底本 「アイヌ民譚集」 岩波文庫、岩波書店
1981(昭和56)年7月16日
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2012-01-01 / 2014-09-16
長さの目安約 67 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より

えぞおばけ列伝

[#改ページ]

1.へっぴりおばけ

 屋内に独りいると突然炉の中でポアと音を発する.するとあちらでもポア,こちらでもポアとさいげんがない.臭くてかなわない.そういう際には,こっちでも負けずにポアと放してやれば,恐れ入って退散する.あいにくと臭いのが間に合わぬときは,ポアと口真似するだけでも退散するというから,このおばけ案外に気はやさしいのかもしれぬ.名は「オッケオヤシ(1)」(屁っぴりおばけ),または「オッケルイペ(2)」(屁っこき野郎)という.

2.へっぴりおやじの話

 前記の「屁っぴりおばけ」というのは樺太アイヌの日常生活や説話の中に出てくるおばけである.おばけなどというよりは,おやじと呼びたいくらい邪気のないおばけだ.このおやじの放屁の偉力を示す説話をひとつ,次に紹介しておく.

 ヤイレスポ(3)とパーリオンナイ(4)が隣りあって住んでいた.
 ある日パーリオンナイは部下を連れて舟をつくりに川上へのぼって行き,舟をつくりあげてそれに乗って下って来ると,川岸に一人の若者がいて,
「パーリオンナイさん,私を舟にのっけてつれて行ってくれないか」
と言うので,その男をのせて下って行くと,男は舟にゆられゆられ
ナンタテレケ ヨーイトサ
(船首へよろよろ ヨーイトサ)
ウンタテレケ ヨーイトサ
(船尾へよろよろ ヨーイトサ)
と歌っていたが,とつぜん,
ポア
と放屁した.そのため舟は船首の所まで裂けてしまった.男は舟から飛びだして逃げてしまった.パーリオンナイは部下とともに川へ落ちて流れただよい,やっとのことで家へ帰りついた.
 それから二日たち三日たって,こんどはヤイレスポが部下をつれて舟をつくりに山へ行った.そして二日がかりで舟をつくって,それに乗って川を下って来ると,川岸の砂の上に一人の男がいて,
「ヤイレスポのだんな,私を舟にのっけてつれて行ってくれませんか」
とたのんだ.ヤイレスポが,
「おや,へっぴりおやじではないか.なんだってお前,舟なんかにのりたがるのだ.だめだ,だめだ」
と言うと,それでもしつこくせがむ.うるさくなって舟にのせると,部下の者は口々に,なぜへっぴりおやじなぞ乗せるんだとヤイレスポに食ってかかった.そのうちにヤイレスポは隙を見て,
「へっぴりおやじを,みんなでぶんなぐれ」
と命令したので,若者たちが寄ってたかって棒でなぐり殺したら,一匹の黒狐(5)であった.
 それを皮剥ぎして,肉と骨はこまかく切りきざんで,草にも木にも食物として分けてやった(6).皮は内地へ交易に行ったとき,売ってさまざまの宝物に換え,へさきの舟底に積み重ね,ともの舟底に積みならべて村へ帰り,ヤイレスポはすごい長者になった.

3.腹ぺこおばけ

 山野で腐れ木の根もとなどに火を焚いてあたりながら弁当の包みをといていると,とつぜん背後から…

えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko