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粟田口霑笛竹(澤紫ゆかりの咲分)
あわだぐちしめすふえたけ(さわのむらさきゆかりのさきわけ) |
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作品ID | 52244 |
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副題 | 02 粟田口霑笛竹(澤紫ゆかりの咲分) 02 あわだぐちしめすふえたけ(さわのむらさきゆかりのさきわけ) |
著者 | 三遊亭 円朝 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「圓朝全集 巻の三」 近代文芸資料複刻叢書、世界文庫 1963(昭和38)年8月10日 |
入力者 | 小林繁雄 |
校正者 | 門田裕志、仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2010-11-29 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 393 ページ(500字/頁で計算) |
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一
さて今日から寛保年間にございました金森家の仇討のお話で、ちとお話にしては堅くるしゅうございますから、近い頃ありましたお話の人情をとりあわせ、世話と時代を一つにして永らくお聞きに入れましたお馴染のお話でございますが、ちと昔の模様でございまして、草双紙じみた処もございます。粟田口國綱と云う名剣が此の金森家にございます。これはその北條時政の守刀で鬼丸と申します名刀がございました、これと同作でございまする。かの國綱の刀の紛失から末が敵討になりまする。このお話の発端は、寛保三年正月の五日でございます。昔も今も変りませんのは、御婦人は春羽根をつき毬をついてお遊びなさいます。男の児は紙鳶といって凧を揚げるというのが春の遊びで、どこともなく陽気なものでございます。一体空を見るのは薬だというので、皆仰向くような遊びでございますから、紙鳶をびい/\/\と揚げますれば、是非子供は空を見なければなりません。また羽根を突けば必ず空を見る。只今あの皆様が椅子にかゝってコップで御酒を飲る時は、仰向いてグーッと飲まなければならんような事になって居りまする、つまり人間の健康のために致すことで、アノ羽根を突くのをよく/\聞いて見ますれば、あれは蚊に喰われないまじないだと申しました方がございますから、どういう訳かと質ねましたらば、子守が児を負いまして、カチーリ/\と羽根を突くと云うと、むくれんじの玉の返る処が蜻蛉という虫に似て居りますから、蜻蛉返りと云って、くる/\ッと返る、蜻蛉と云うものは蚊を捕り喰う虫だと云うので、赤ん坊の頭を蚊に喰わさんがためにカチーリと羽根を突き、くる/\ッと返ると蚊が逃げるんだそうですから、一体は夏つかなければならんものだが、何ういう訳か正月羽根を突くことになりましたが、昔の羽子板は誠に安っぽいものでございます、只今でも何うかすると深川八幡の市で売って居りまするのは、殿さま、かみさま、さんじゃさまとか云う昔風の絵が書いて有りますが、只今は役者の押絵で誠に美しい大きいのが流行ります。近年は羽子板の外へ刀を持った手などの出たのが有りまして、羽子板の大さが六尺三寸と云うので、まさか、朝飯前には中々持ち切れません、それでカチーリ/\と突きますが、能く突けたもので、親の教より役者の押絵の方が大事だと見えて、
女「いえ、これは貸しません、私のは大切な新駒屋のだから中々貸されません、似顔へ吉野紙を当てゝしまって置くのですから」
男「そんな事を云わないで貸しておくれよ、追羽根をするんだから」
女「顔を汚すといけないからさ」
男「じゃア宜い、塵取でも持って来よう」
と正月は必ず追羽根を突きまする。丁度其の頃湯島切通しに鋏鍛冶金重と云う名人がございました。只今は刈込になりましたが、まだ髷の有る時分には髪結床で使う大きな鋏でございます。鍛えが宜しいから、ジョキリと一鋏で剪れるが、下…