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明日は天気(二場)
あすはてんき(にば)
作品ID52302
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集3」 岩波書店
1990(平成2)年5月8日
初出「改造 第十巻第一号」1928(昭和3)年1月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-02-10 / 2014-09-16
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



宿の女中 甲
宿の女中 乙
風呂番
番頭
[#改ページ]



真夏――雨の日
ある海岸の旅館――海を見晴らせる部屋

夫  (腹這ひになり、泳ぎの真似をしてゐる)
妻  (絵葉書を出す先を考へてゐる)
女中  (はひつて来る)
夫  (泳ぎの真似をやめて、新聞を読んでゐる風をする)
女中  ほんたうに毎日お天気がわるくつて、御退屈でございませう。
妻  ええ、でも、海へは何時でもはひれるんだから、かうして、静かな処で、雨の音を聴いてゐるのもいいわ。どうせ避暑に来たんだから、涼しいのが何よりよ。
女中  それやもう、お涼しいことは、なんて申しましても、お天気の日よりはね。これで、海岸と申しましても、日が照りますと、なかなか、ぢつとしてはゐられないんでございますよ。
妻  さうでせうね、でも、かういふ風だと、お客さまも少いでせう。
女中  はあ、もう、これで、ぼつぼつお引上げになる方もありますんですよ。東京の方も、お涼しいさうでございますね、昨今は……。
妻  そんなことはないでせう。あたしたちの来た日なんかは、少し曇つてたけれど、随分蒸し暑かつたわ。早くどつかへ行きたいつて、忙しいところを逃げ出して来たんですもの。
女中  さうでございますかね。昨晩、こちらの番頭さんが東京へ参りましたんですよ。一寸、用がございましたもんですからね。その番頭さんから、今朝、電話で、東京も昨晩から大雨で、浴衣一枚では寒いくらゐだつて申して参りましたんですよ。
夫  おい、君、東京の話はよしてくれ。折角、仕事の事を忘れて、二三日ゆつくり頭を休めに来たんだから……。
女中  おや、とんだ失礼を……。何か御用はございませんか。
夫  あつたら呼ぶから、まあ、君は引下つてくれ。
妻  なんですよ、あなたは……そんな無愛想なことをおつしやつて……。
女中  どうも、失礼いたしました。(出で去る)
妻  およしなさいよ、そんなに八ツ当りをなさるのは……。いいぢやないの、雨が降つてたつて……泳いでらつしやいよ、そんなに泳ぎたければ……。
夫  雨が降つてても泳げ……? 人が見たら気違ひだつて云ふぜ。
妻  畳の上で泳いでる方がよつぽど気違ひだわ。
夫  いつそ、東京へ帰らうか。
萎  もう一日ゐてみませうよ。なんだか、向うの空が明るくなつて来たやうだわ。若しかしたら、明日はお天気よ。
夫  ――東京は随分涼しいさうね。こちらは毎日暑くつて、海へ一度もはひりませんつて、さう、書け、端書に。
妻  あたし、百合子さんに、かう書いたの。――東京はさぞお暑いことでせう。こちらは、朝夕の散歩に羽織がいるくらゐにて……。
夫  朝夕の散歩……?
妻  まあ、聴いていらつしやい。――羽織がいるくらゐにて、日中は、海にはひり通しですから暑さ知らず……。
夫  やれやれ……。
妻  二三日の間に、恥…

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