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うどんのお化け
うどんのおばけ
作品ID52321
著者古川 緑波
文字遣い新字新仮名
底本 「ロッパの悲食記」 ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年8月24日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-10 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 目下、僕は毎日、R撮影所へ通って、仕事をしている。そして、毎昼、うどんを食っている。
 此の撮影所は、かなり辺鄙な土地にあるので、食いもの屋も、碌に無い。だから、一番安心して食えるのは、うどんだと思って、昼食には、必ず、うどん。そのせいか、大変、腹具合はいい。
 そばも食いそうなものだが、僕は、そばってものは嫌い。嫌いと言うよりも、そばを食うとたちまち下痢する。子供の頃は、そんなことは、なかったんだが二十代から、そうなった。だから、江戸っ子の癖に、そばが食えない。従って、僕の食談には、そばに関することは、殆んど出て来ないのである。
 ヘンなもので、同業エノケン、榎本健一君が、大変な、そば嫌いである。彼は、先天的の、そば嫌悪症らしく、初恋の女性が、そばを好んだために、彼は、彼女を、あきらめてしまったという話がある位だ。
 同業ではありながら、何もかも僕とは正反対の芸を持っているエノケンが、そば嫌いという点でのみ、共通している(おっと、酒を好むことを落してはならなかった)のは、面白い。
 さて、うどんの話であるが、撮影所の近くにある、そば屋へ、毎日註文するとなると、さて、何うどんにしようかと、迷う。おかめ、卵とじ、鴨南蛮、鍋焼――と、昔風なのからカレーうどん、きつねうどん(油揚げの入った奴。無論関西から来たもの)或いは、又、たぬきというのもある。これは、何かと思ったら(昔は、あんかけを、たぬきに称していたようだが)揚げカスを、載っけた奴であった。それなら、つい先頃まで、ハイカラうどんと称していた筈である。
 ま、そんなところを、毎日メニュウを変えて註文しているうちに、何うも、十日以上にもなると、倦きちまって、カレーうどんに生卵を落して呉れと註文したり、おかめと、きつねの合併したのを造って呉れと、言ったりし始めた。
 或る日のこと、又色々考えた末に、今日は一つ、おかめと卵とじの合同うどんを拵えて呉れないか、と註文した。やがて、出前持ちの青年が、それを持って来たので、こんな妙な註文をする客は、他には無いだろうね、と言ったら、出前持ち曰く、
「いいえ、これはカメトジと言って、ちょいちょい註文があります」
 へーえ? と僕は驚いた。
 が、更に、驚いたのは、出前持ち氏の次の言葉である。
「随分いろんなこと註文する方がありましてねえ。ええ、お化けっての知ってますか?」
 僕は、たちまち面白くなっちまって、
「お化け? へーエ、うどんに、そんなのがあるのかい?」
「あるんです」
「何んなんだい?」
「ええ、ネタを全部ブチ込んじゃうんです。おかめも、きつねも、たぬきも――」
「ハハア、それが、お化けか」
 何と、お化けとは!
 然し僕は、可笑しくなっちまった。うどん食いにも、通はあるもんだな、と。
 で、そのお化けを、次の日早速試みたが、こいつは、正に、お化けで、味もヘンテ…

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