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駄パンその他
だパンそのた
作品ID52330
著者古川 緑波
文字遣い新字新仮名
底本 「ロッパの悲食記」 ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年8月24日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-19 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 武者小路先生の近著『花は満開』の中に、「孫達」という短篇がある。先生のお孫さんのことを書かれた、美しい、たのしい文章である。
 その中に、四人のお孫さん達が、食べものの好き嫌いがあるということを書いて、
 ……僕は勿体ないとか行儀が悪いとか言うので、たべたがらないものを無理に食べさすことにはあまり賛成ではなく、偏食はよくないと思うが、食慾が起らないものを無理に食べさす必要はないのではないかと思っている。食物を外にすてる方が不経済か、胃腑の中にすてる方が不経済か、僕にはわからない。……
 と言って居られるのは、大変面白い言い方だと思った。全く、嫌いな物を食べることは、胃腑の中へ捨てるようなものだろう。
 丁度、これを読んだ頃、サンデー毎日の「パリ勤めの苦しさ」(板倉進)というのを読んだら、ここには、「食べ残し」の説が出ていた。パリのレストオランに於ては、
 ……先ず食べ残すことを覚えるのが、第一課である……
 とあり。
 これも、無駄なものを、胃腑の中に捨てることはいけないと言う説である。
 パリのレストオランのことを読んでいて、思い出すのは、それは文藝春秋の四月号だった、福島慶子さんの「巴里たべある記」の中に、
 ……凝ったフランス料理は、いくら美味でも毎日食べたら胃袋も財布も堪らない。こういう食事をした晩は何もしないで体を休め、翌日は断食、三日目に僅かな粗食と果物類を主にとり、四日目に再び美食に向って突進するに限る。さもなければ我々菜食人種は病気になる事受合だ。……
 とあったことだ。
 僕は、これを読んだ時、ああ福島慶子さんは偉い、流石は武士の心がけ! と感心したので、ノートして置いたのである。まことに、此の中の「翌日は断食」というところでは、感動した。
 この心がけがなくては、食通とは言えない。食物を愛する者とは言えないと思う。胃袋のコンディションのよくない時に、何を食ったって、第一、味が判りはしない。「腹の減った時に不味いものはない」とは永遠の真理である。
 Hunger is the best Sauce.
 という表現も、同じことを訓えている。
 そういう受け入れ態勢を、自分で用意することは、料理人に対する礼であろう。料理人も亦、芸術家なのだから、芸術家に対するエチケットを心得るべきである。
 そして、福島慶子さんは、言うのである。
「四日目に再び美食に向って突進するに限る」
 ああ、美食に向って、突進!
 花柳章太郎、鴨下晃湖などを同人とする、俳句の雑誌「椿」(第十二号)に、伊藤鴎二氏の「喰べもの記」がある。その中に、パン(いわゆるショクパン)のうまいのを探す話が出て来る。
 プルニエのパンを賞めているのは、賛成。
 ……併しパンだけ貰いに行くわけには行くまい。……
 と、なるほど、プルニエへ、パンだけお呉れと言って行くわけにも行かないだろう…

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