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子供はばかでなかった
こどもはばかでなかった
作品ID52561
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 8」 講談社
1977(昭和52)年6月10日
初出「国民新聞」1931(昭和6)年3月1日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者津村田悟
公開 / 更新2020-04-26 / 2020-03-28
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 吉雄は、学校の成績がよかったなら、親たちは、どんなにしても、中学校へ入れてやろうと思っていましたが、それは、あきらめなければなりませんでした。
「なにも、学校へいったら、みんなが偉くなるというのでない。りっぱな商人には、小僧から成り上がるものが多いのだよ。家にいては、なんのためにもならぬから、いいとこをさがして、奉公なさい。そして、お友だちに、まけないようにしなければならぬ。」と、お母さんは、いいました。
 いままで、小学校時代に、仲よく遊んだ友だちが、それぞれ上の学校へゆくのを見ると、うらやましく、お母さんには思われました。
「なぜ、うちの子は、もうすこし勉強をして、できてくれぬだろう?」
 こう思う一方には、また、できない我が子が不憫になって、
「あの子の心のうちこそ、いっそう、悲しいだろう。」と、考えて、なにもいうことはできなかったのです。
 町の、大きな呉服屋で、小僧が入り用だということを聞いたので、そこへ、吉雄をやることにしました。
「よく、ご主人のいいつけを守って、辛棒するのだよ。」と、お母さんは、いざゆくというときに、涙をふいて、いいきかせました。
 子供が、いってから、二、三日というものは、お母さんは、仕事も手につきませんでした。
「いまごろは、どうしているだろう?」と、思ったのでした。
 すると、五、六日めに、ひょっこり、吉雄はもどってきました。
「どうして、おまえ帰ってきたのだい。」と、驚いて、お母さんは、たずねました。
「上の小僧さんが、意地悪をしていられない。」と、吉雄は、訴えました。
「そんなことで、帰ってくるばかがあるか?」と、お父さんは、しかりましたが、お母さんは、そこばかりが、奉公口でないといって、ほかをさがすことにしました。
 これも、町で、きれいな店を張っている時計屋でありました。そこで、もう一人、小僧がほしそうだから、世話をしましょうといってくれた人がありました。
「ほんとうに、時計屋なんかも、いい商売だね。」と、お母さんは、喜びました。
 吉雄は、その人につれられて、時計屋へゆくことになりました。
「またつとまらんといって、帰ってくるようなことがあっては、近所に対して、みっともないから、たいていのことは、我慢をするのだよ。」と、お母さんはいいきかせました。
 吉雄は、うなずいて、出ていきました。やはり、二、三日は、お母さんは、子供のことを案じて、仕事が手につきませんでした。
「つらくても、我慢をしているのでないかしらん? あんなことをいうのではなかった……。」と、思いわずらっていますと、
「僕、帰ってきた……。」と、入り口でした声は、たしかに、自分の子の声でありました。母親は、またかと驚いて、飛び出しました。
「どうしたんだ? 吉雄……。」と、お母さんは、思わず、我が子の顔をにらみました。
 よくきくと、時計屋のおば…

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