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銅像と老人
どうぞうとろうじん
作品ID52577
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 8」 講談社
1977(昭和52)年6月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者津村田悟
公開 / 更新2021-03-24 / 2021-02-26
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 田舎に住んでいる人々は、遠い都のことをいろいろに想像するのでした。そして、ぜひ一度いってみたいと、思わないものはないのであります。
「ああ私も、足・腰のじょうぶなうちに、東京見物をしてきたいものだが、なかなかそう思ってもいざ出かけるということは、できないものだ。」と、おじいさんは、いいました。
「おじいさん、また、秋になると忙しくなりますが、いまは、ちょうど暇のときですから、すこし暑いが、東京見物にいっておいでなさいませんか……。」と、せがれがいいました。
 おじいさんは、うれしそうに笑いながら、
「なに、いまいかなくとも、また、そのうちに、いいおりがあるにちがいないから、そのときやってもらおう。」と、答えました。
 若いものたちは、平常、おじいさんが、この年になるまで働いているのを、感謝していましたから、みんなが、口をそろえて、
「おじいさん、いっておいでなさいまし。」といいました。
「しかし、おじいさん、一人でゆかれますか。それが、心配です。東京は、電車や、自動車が通ったりしますから、それが心配です。」と、せがれが、いいました。
 おじいさんは、まだ、きかぬ気の、がんこそうな体を揺すって、日に焼けた顔で、笑いながら、
「なに、かえって、一人というものは、いいものだ、気楽でな。まだ、年を取っても、手足はきくし、目も見えれば、耳もよく聞こえる。そんな、心配はいらない。私は、いっても、じきに帰ってくるから……。」といいました。
「じきに、お帰りなさらんでも、留守はだいじょうぶです。おじいさんがいられなくても、私たちだけで精を出せば、田や畑のことはできます。ゆっくりと、いろいろなところを見物して、おいでなさい。」
「おじいさん、ほんとうに、ごゆっくりしておいでなさいまし。」と、せがれの女房がいいました。
「おじいさん、僕もつれていっておくれよ。」と、そばで、この話を聞いていた、孫の正吉がいいました。
 おじいさんは、正吉の頭をなでて、
「おまえなどは、大きくなれば、いくらでもいって見られる。私が東京見物にいったら、なにを土産に買ってきてやったらいいものかのう……。」
「ねえ、おじいさん、僕も、つれていっておくれよ……。」
「ばか、おじいさんは、幾日も泊まってきなさるんだ。」
 このとき、おじいさんは、東京のにぎやかさを、ちょっと頭の中で想像しました。そして、もう、その人たちの雑踏している中を分けて、公園や、名所や、方々の建物を見物に歩いている、自らの姿を目に描いていたのです。
「西郷さんの銅像も、いったらぜひ見てきたいものだ。」と思いました。
 おじいさんは、若い時代から、この英雄の物語を聞いて、深く崇拝していました。そして、上野の公園へいったら、かならず、この銅像を見てこなければならぬということも知っていました。
「そういってくれるなら、一週間ばかり、田や畑…

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