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夏とおじいさん
なつとおじいさん
作品ID52580
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 8」 講談社
1977(昭和52)年6月10日
初出「國民新聞」1931(昭和6)年7月12日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者津村田悟
公開 / 更新2018-08-01 / 2018-09-29
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある街に、気むずかしいおじいさんが住んでいました。まったく、独りぽっちでおりましたけれど、欲深なものですから、金をためることばかり考えていて、さびしいということなど知りませんでした。
「おじいさんは、おひとりで、おさびしくありませんか?」と、独り者のおじいさんの身の上を思って、なぐさめるものがあると、
「仕事にいそがしいから、そんなことは考えませんよ。」と、おじいさんは、さびしいとか、さびしくないとかいうのは、閑人のいうことだとばかりに返事をしました。
「それは、お元気で、なによりけっこうなことです。」と、たずねた人は、金がもうかれば、さびしくないものとみえる、さすがに、金持ちはちがったものだと思いました。
 おじいさんは、雇い人を手足のごとく使いました。雇い人たちは、おじいさんの気むずかしやを知っていますから、せっせといいつけどおり働いたのです。そして、自分の思ったように物事がうまくゆけば、にこにことして、おじいさんは、きげんがよかったけれど、うまくゆかないときには、
「おまえは、気がつかん、ばかだから。」といって、がみがみしかったのであります。
 雇い人は、たまりかねて、
「あんなわからずやには、罰があたればいい。」と、思っていました。ところが、おじいさんはリューマチの気味で、夏のはじめごろから、手足がよくきかなくなりました。
「とうとう、神さまが、罰をおあてなされたのだ。これからは、私どもにもやさしくしてくださるだろう。」と、雇い人たちは、いったのであります。
 ところが、その反対で、体こそよく自由はきかなかったが、ますます口やかましくなって、それに自分が不自由で、思うようにならぬところから、かんしゃくを起こして、使っているものに、小言をいったのです。
 それでも、みんなは、「病人だから、だまっておれ。」と、我慢をしていました。
 日にまし、あつくなると、はえや蚊が、だんだん多く出てきました。はえは遠慮なく、おじいさんのはげた頭の上にとまりました。
「この畜生め。」といって、おじいさんは、うちわを頭の上にやって、はえをたたこうとしました。はえは、すばしこく逃げて、また、おじいさんがじっとしていると、頭の上にきてとまりました。
「ふといやつだ、おれをからかっているな。」と、おじいさんは、顔を赤くして怒りました。しかし、はえのことですから、怒ってみるだけで、どうすることもできません。
 また、晩になると、蚊がやってきて、おじいさんを、ちくちくと刺しました。
「おれが、手足がきかないと思って、蚊までがばかにする。」と、おじいさんは、怒ったのであります。
 はえや、蚊に対する腹だたしさが、つい雇い人のほうへまわってきましたから、たまりません。せめて、この夏の間なり、涼しい山の温泉にでもまいられたらといって、おじいさんにすすめました。
 おじいさんは、いい考え…

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