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平原の木と鳥
へいげんのきととり
作品ID52592
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 8」 講談社
1977(昭和52)年6月10日
初出「黒色戦線 第2次」1931(昭和6)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者津村田悟
公開 / 更新2021-04-24 / 2021-03-27
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 春の先駆者であるひばりが、大空に高く舞い上がって、しきりにさえずるときに、謙遜なほおじろは、田圃の畦道に立っているはんのきや、平原の高い木のいただきに止まって、村や、野原をながめながらさえずりました。
「もっと高く上がって、鳴いたらいいじゃないか? 春の魁となるくらいなら、おれみたいに敵を怖ろしがらぬ勇気がなければならない。おれは、高く、高く、できるだけ高く上がって、声をかぎりに鳴くのだ。野原や、村にばかり、呼びかけるのじゃない。遠く町にも、海にも呼びかけるのだ。どこからでも、おれの姿は見えるだろう。敵は、いつでもおれをねらうことができる。おれは、春の先駆者なんだ。君たちも、もっと勇気がなければいけない。」
 ひばりは、こう、ほおじろに向かっていいました。おとなしいほおじろだったけれど、卑怯者と見られたことが残念だったのです。
「ひばりくん、それはちがうでしょう? なるほど、君は海に、野原に、町に、村に、呼びかけている。そして、雲の上まで高く昇って呼びかけている。みんなは、君の姿を見ようとするけれど、あまりに、地上から距離がはなれています。君を捕らえようと思うものまで、あきらめてしまうものが多い。だから、君の評判は、高いけれど、かえって、安全なのです。これに反して、私たちは高く上がらないでしょう。あるいは、性質上できないのかもしれません。いつも、こずえのいただきから、いただきへと飛びまわって叫んでいます。そして、君のいわれるように、私の声はあちらの町や、海の上にまで達しないかもしれない。けれど、野原に生活するいっさいのものに、村で働くすべてのものに、春の魂をふき込んでいます。君の叫びと私の叫びと、叫びがちがうとはけっして思っていない。敵にねらわれるということからいえば、地上にいるだけにどれほど、私たちのほうが、危険であるかしれないでしょう。」
 ほおじろは、こう、傲慢なひばりに向かって、答えました。ひばりは、この言葉をきかぬふりして、あざけりながら、空に、吸い込まれるように舞い上がって、姿を消してしまったのです。しかし、その朗らかに、歌う声だけはきこえてきました。
 ほおじろは、先刻から、同じ田の畦道に立っているはんのきにとまって、あたりを見まわしながら、くわを取る百姓に、すきを引く牛に、馬に、勇気と、自由の精神をふるいたたせようとさえずっていたのです。
 それは、白い雲の、あわただしく流れる日でした。この雄のほおじろは、このあいだから、つけねらっていた町の鳥刺しのために、すこしの油断を見すかされて、ついに捕らえられてしまいました。
 もう、翌日から、ふたたび彼のさえずる声をきくことができなかった。
「きょうは、あのほおじろが鳴かないが、どうしたろうか?」
 百姓たちは、なんとなく、もの足りなく思いました。そして、腰を伸ばして、あちらのはんのきの方をながめ…

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