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町の真理
まちのしんり
作品ID52598
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 8」 講談社
1977(昭和52)年6月10日
初出「帝国教育 589号」1931(昭和6)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者津村田悟
公開 / 更新2021-05-25 / 2021-04-27
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

せみ

 B坊が、だれかにいじめられて、路の上で泣いていました。
「どうしたの?」と、わけをきくと、こうなのであります。
 A坊と、B坊は、いっしょに遊んでいたのです。すると、みんみんぜみが飛んできて、頭の上の枝に止まりました。
 二人は、家に走っていって、もち棒を持ってこようとしました。すると、日ごろから、強い、わんぱく子のA坊が、
「これは、僕のせみだから逃がしちゃいけないよ。番をしていておくれ。」と、命ずるように、B坊に向かっていいました。
[#挿絵]
清水良雄・絵[#「清水良雄・絵」はキャプション]

 気の弱いB坊は、たとえ内心では、それを無理と感じても、だまって、うなずくよりほかはなかったのです。
「どうか、Aちゃんのくるまで、みんみんぜみが、逃げてくれなければいいが……。」と、B坊は、心配していました。なぜなら、もし、せみが、逃げたら、きっとA坊は、自分のせいにすると思ったから。
 B坊は、上を向いて、せみを見守りながら、身動きもせず、じっとしていました。せみは、つづけて、ミン、ミン、ミン――と鳴きました。そして、鳴きやむと、思い出したように、遠方を目がけて、飛び去ってしまいました。うらめしそうに、B坊は、しばらく、飛び去ってしまったせみの行方を見守っていました。
 そのとき、もち棒を持ったA坊が、息をきらしながら、あちらから駆けてきました。
「Bちゃん、せみはいる?」と、遠くから、こちらを見て叫びました。B坊は、なんとなく、すまなそうな顔つきをして、頭をふり、
「逃げてしまった。」と、答えました。
「うそだ! 君が、逃がしたのだろう……。」と、A坊は、すぐ、そばにくると難題をいいかけました。
「僕が、逃がしたのではないよ。」と、B坊は、あまりのA坊の邪推に、不平を抱きました。
「君は、番をしているといったじゃないか?」
 B坊は、たしかにそういったから、だまっていました。
「君は、番をしているといったろう。このうそつき!」
 こういって、A坊は、B坊をなぐったのです。
 ――話はこういうのでした。さあ、どちらに真理がありましょう?

博物館

「ねえ、叔父さん、上野へまいりましょう。」と、学生がいいました。
 もう、秋で、上野の山には、いろいろの展覧会がありました。
「そうだな、天気がいいから、いってみようか。」
 二人は、家を出かけました。そして、電車を降りて、石段を上がり、桜の木の下を歩いて、動物園の方へきかかりました。いつしか桜の葉は黄ばみかかって、なかに、虫ばんでいるのもあれば、風もないのに、力なく落ちるのもありました。
「おまえは、光琳の絵を見たことがあるか。」と、叔父さんは、甥にききました。
「よく、絵画雑誌に載っている、写真版で見たことがあります。」
「写真版では、うまみがよくわからんが、気品があるだろう……。」と、叔父さんがい…

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