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森の中の犬ころ
もりのなかのいぬころ
作品ID52600
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 8」 講談社
1977(昭和52)年6月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者藤井南
公開 / 更新2016-01-06 / 2015-12-24
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 町のある酒屋の小舎の中で、宿無し犬が子供を産みました。
「こんなところで、犬が子を産みやがって困ったな。」と、主人は小言をいいました。これも、小僧たちが、平常小舎の中をきれいに片づけておかないからだと、小僧たちまでしかられたのであります。
「この畜生のために、おれたちまでしかられるなんて、ばかばかしいこった。犬の子を河へ流してきてしまえ。」と、小僧たちは話をしました。
「そんな、かわいそうなことをするもんじゃない。目があいたらどこかへ持っていって捨てておいで。」と、かみさんがいいました。
 そのうちに、小犬たちは、だんだん目が見えるようになりました。そして、よちよちと、短い、筆先のような尾をふりながら歩くようになりました。「どうか、もうすこし、子供たちが大きくなるまで、ここにおいてください。」と、あわれな母犬はものをいわないかわりに、目で小僧さんたちに訴えたのであります。けれどそれは許されませんでした。
「だれか、もらいてがあるといいんだがな。」
「警察へつれていくと、一ぴき三十銭になるぜ。君つれていかないか?」
「ばかにするない。晩に、どこかへ、リヤカーに載せて捨ててきてやろう。」と、小僧さんたちは、そんな話をしていたのです。これを聞いた、母犬は、おどろきました。なぜなら、たとえしんせつそうに見える人間でも、そうしたことをやりかねないからです。
「私も、はじめは、何不自由なく、かわいがられたものだ。それを、どういうわけか、いつからともなくきらわれて、私は、ついに、おいてきぼりにされて、飼い主は、どこへかいってしまった。私は、いまでも、その人たちをなつかしく、慕わしく思っているばかりでなく、ご恩を受けたことを、けっして忘れはしない。けれど、こんなことがあってから、人間を信じていいものかわからなくなった……。」と、母犬は考えました。
 母犬は、だれにも、気づかれない間に、小犬たちをつれて、そこからほど隔たった、ある森の中に引っ越してしまいました。
 その森は、ある大きな屋敷の一部になっていたのです。破れた垣根からは、犬ばかりでなく、近所に住む人間の子供たちも、ときどき、出入りをしました。秋になると、どんぐりの実が落ちれば、また、くりの実なども落ちるのでありました。
 母犬と小犬が、この森の中にうつったのは、まだ春のころでありました。人間の子供たちが、いたずらをしに、容易に近づかれないように、いばらや、竹のしげった一本の木の根のところに、穴を深く掘って、その中にすんだのであります。やっと、安心をした母犬は、かわいい子供たちを、かわるがわるなめてやりながら、
「ここなら、雨もあたらないし、また、だれからも追いたてられたり、じゃまにされたりすることもないだろう。私たちが人間になつくのは心の底からだけれど、人間は気まぐれで、捨てもすれば、また、ちょっとしたことでも、…

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