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トム吉と宝石
トムきちとほうせき
作品ID52602
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 8」 講談社
1977(昭和52)年6月10日
初出「日の出 1巻2号」1932(昭和7)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者津村田悟
公開 / 更新2021-03-24 / 2021-02-26
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 遠い、あちらの町の中に、宝石店がありました。
 ある日のこと、みすぼらしいふうをした娘がきて、
「これを、どうぞ買っていただきたいのですが。」
といって、小さな紙包みの中から、赤い魚の目のように、美しく光る石のはいった指輪を出してみせました。
 ちょうど、主人の留守で、トム吉が手にとってながめますと、これほど、性のいいルビーは、めったに見たことがないと思いましたから、しばらく感心して、掌にのせてながめていました。
 娘は、小僧さんが、なんというだろうかと、さも心配そうな顔つきをしていました。
(もし、これが、いい値に売れなかったら、病気の弟をどうしたらいいだろう。そればかりでない、明日から私たちは食べてゆくことができないのだ。)
と、いろいろ思っていたのです。
「この指輪を、どこでお求めでございましたか。」と、トム吉は、たずねました。
 すると、娘は、正直にその指輪について話したのです。
「それは、死なれたお母さんが、お祖母さんからもらって、大事になさっていたのを、お亡くなりなされる時分、指からぬいて、これはいい指輪だから、よほどのときでなければ、はなしてはいけないとおっしゃって、私にくださったものです……。」
と、娘は、いまの不自由をしていることまで、物語りました。
 トム吉は、だまって、娘さんのいうことをきいていましたが、
「じゃ、弟さんがご病気で、この大事になさっている指輪をお売りなさるというのですか。」
と、たずねました。
 娘は、かなしそうに、目にいっぱい涙を浮かべながら、うなずきました。
「いや、まことにけっこうな石です。」
といって、トム吉は、真物の相場どおりに高値で買ったのでした。
 娘は、いい値に指輪が売れたので、たいそうよろこんで、これもお母さんのおかげだと思って、はやく弟の治療をするために立ち去りました。ちょうど、それと入れちがいに、主人がもどってきました。
 トム吉は、主人の顔を見ると、
「こんな性のいいルビーが出ました。」
といって、娘から買った指輪を見せたのであります。主人は、眼鏡をかけて見ていましたが、
「なるほど、珍しい、たいした代物だな。」と、微笑みながら、
「これを、いくらで買ったか。」と、たずねました。
 いつも、こうした取引にかけては、万事、自分を見まねていて、ぬけめがないとは思いましたが、念のためにきいたのでした。
 しかし、トム吉が、真物どおりの相場で、正直に買ったと知ると、たちまち、主人の顔は不機嫌に変わって、怒り出しました。
「いま、出ていったあの娘だろう。あんな素人をごまかせないということがあるもんか。みんな、おまえが、商売に不熱心だからだ。」
といって、しかりました。
 いったい、宝石ばかりは、目のあかるい人でなければ、真物か、偽物か、容易に見分けのつくものでありません。また、性のいいわるいについても同じ…

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